枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

狩衣は

 狩衣(かりぎぬ)は、香染(こうぞめ)の薄いもの。白いふくさ。赤色の。松の葉色。青葉の色。桜襲のもの。柳色のもの。藤色。男はどんな色の衣でも着てるわ。


----------訳者の戯言---------

狩衣(かりぎぬ)は文字通り「狩り」をするときに使っていた衣服です。動きやすいので、これが平安貴族たちの普段着となりました。スポーツウェアとかワークウェア起源のカジュアル服、インフォーマルな服という感じですね。今で言うと、ポロシャツとかトレーナーとかスニーカー、ジーンズなんかの感じでしょうか。
近年はドレスコードを無くして、クールビズだけでなく通年カジュアルという会社が増えてきました。お堅いと言われる銀行などの金融機関でもそうなっていますね。狩衣のいでたちもそれに近いものがあるかもしれません。
ただ、ちょっと無理をしている感じがイタい人もいるのはたしかで、急にTシャツを着てきたり、なぜかフード付きのパーカーを着てきたりします。完全自由化なのでいいのですが、パーカーを着たおじさんが課長席にいるのですから。何と言ったらいいのでしょうか。


香染」は丁子で染めたもので、薄い茶色です。カフェラテの色ぐらいの感じでしょうか。落ち着いた色合いです。
香色という染色もあります。見たところ香染よりは淡いです。そもそも丁子で染めた香色(香染)というのは色相が広くて、平安時代は色の濃淡で、淡香(うすきこう)、中香(なかのこう)、濃香(こきこう)と呼び分けていたそうですから、「香染の薄き」というのは「淡香」だったのかもしれないですね。そうするとミルクティーぐらいの色でしょうか。ベージュと言ってもいいかもしれません。

「ふくさ」というのは、糊を引いていない絹、やわらかい絹を指して言ったようですね。当時はカジュアルウェアに使ったようです。

袱紗(ふくさ)というと、祝儀袋や不祝儀袋を包むあれで、掛け袱紗とか包み袱紗とか言われるものですね、今は。絹織物とかで一重か二重に作っていて、柄は無地のもありますが、おめでたい柄だったり刺繍をしてあるのもあります。本来、進物の上に掛けたり、物を包んだりするもので30~40cmぐらいの正方形に近い形なんですが、ちょうど祝儀袋とかがおさまるようなケースになったのもありますよね。私が持っているのもそれです。

赤色(あか)というのは赤系統の色の総称なんですが、日本最古の色名の一つでもあります。明(アケ、アカ)が語源、つまりそもそもは光の明暗を指す言葉だったんですね。「赤」ではなく「朱」「緋(あけ)」の表記が用いられることもあったようです。平安時代には禁色(きんじき)と呼ばれる高貴な身分のみに着用が許された特別な色としても扱われました。
逆に誰でも使用できる色のことを「ゆるし色」などと言ったそうです。また、禁色が特定の人には許されたり、女房女官には緩くされたりもしたようですね。

松の葉色=松葉色です。文字どおり松の葉のような深みのある渋い青緑色ですね。

青葉という色は、調べたのですが見つかりませんでした。ま、青葉ですからね。青葉の色に違いない。そうだそうだ。

桜=桜襲(さくらがさね)は、表が白、裏が赤か葡萄染(えびぞめ)で、見た目が桜色になる生地です。

柳色はこういう色です。表が白、裏が淡青で柳襲という色目も出しているそうです。

藤色は文字通り藤の花からきた色名。淡い青みのある紫色です。「若紫」とも呼ばれるそうです。


読んでると、清少納言的に押しの狩衣の色というのが次々に出てきてまして、これだけの色をピックアップするならもう狩衣なんて何色でもアリではないのか?と思ってました。が、最後まで読んでみるとまさにそのとおりで。結局、男はどんな色の衣でも着るよ…という結論。え? こ、こんなでいいのですか…?


【原文】

 狩衣(かりぎぬ)は 香染の薄き。白きふくさ。赤色。松の葉色。青葉。桜。柳。また青き。藤。男は 何の色の衣をも着たれ。