枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に㉕ ~ことはじまりて~

 法会が始まって、一切経を蓮の花の赤い造花の一つずつに入れて、僧侶、上達部、殿上人、地下人、六位、その他の者に至るまで持って続いているの、すごく尊いわ。導師が参上して、講義が始まって、舞楽なんかもしたの。一日中見てたら目も疲れて苦しいのね。宮中からお使いとして五位の蔵人が参上したの。桟敷の前に胡床(あぐら)を立てて座ってるのとかってほんとすばらしいわ。
 夜になる頃、式部の丞の則理(のりまさ)が参上したの。「『このまま夜には(中宮は)宮中に参内なさるように。そのお供をしなさい』と、帝より宣旨を賜っていますので」って言って、帰ろうとしないのね。定子さまは「先に(二条宮)に一旦帰ってから」とおっしゃるけれど、また蔵人の弁が参上して関白殿にもお手紙があったってことで、帝の仰せごとなんだからって、ここから参内なさることになったの。


----------訳者の戯言---------

一切経の法会が始まりました。一切経についてや、そしてそもそもこの法会が何のために行われているのかについては、「関白殿、二月二十一日に①」を再度ご参照ください。

導師というのは、法会や供養などの時、僧侶たちを率いてその法要を主宰、つまりリーダーというかボスというか、ですね。僧侶界のBIG BOSSと言っていいかもしれません。嘘。だいたいで言うと、その儀礼を中心となって執行する僧ということになるでしょうか。

胡床(あぐら)というのは折り畳みの椅子みたいなものなんですが、和室で使うものとして今も売られているようです。Yahoo!ショッピングとか楽天にもありました。一般にはパイプ椅子を使うところでしょうけれど、和風のシチュエーション、つまり寺社、結婚式場、葬儀場、華道、茶道、柔道、剣道、歌舞伎、能楽雅楽なんかで折り畳み椅子が必要という場合はこれを使うみたいですね。
形は背もたれの無いディレクターズチェアみたいな感じ。ホテルの部屋にあるバッグとか荷物を置く折り畳みの台みたいなあれと同じような形状で少し小さい物のようです。

則理(のりまさ)というのは源則理という人のことのようです。式部省の丞(3等官)ですから、それほど高い官職の人ではなさそうですね。ただ、妹が伊周の室であったということですから、前途はあったと思います。が、長徳の変で伊周がアレになってしまいますので。則理さんもその後不遇になります。

「蔵人の弁」は、蔵人所のスタッフ(蔵人)にして、弁官だった人。帝の秘書官で太政官の事務官僚でもある、ということになります。今で言うなら宮内庁の幹部スタッフ兼内閣官房副長官補ぐらいの感じです。今ほど仕事があるわけではないので兼務できたんでしょうけど、エリートには違いないですね。


というわけで、あの二条の実家に帰ってから、と思っていたら、帝が直接宮中に戻ってきて、と手紙が届きました。帝、定子をどんだけ好きなんだ。しゃーねーな。というわけで、㉖に続きます。


【原文】

 ことはじまりて、一切経を蓮の花の赤き一花づつに入れて、僧俗、上達部、殿上人、地下、六位、何くれまで持てつづきたる、いみじう尊し。導師参り、講はじまりて、舞ひなどす。日ぐらしみるに、目もたゆく苦し。御使に五位の蔵人参りたり。御桟敷の前に胡床(あぐら)立ててゐたるなど、げにぞめでたき。

 夜さりつ方、式部の丞則理(のりまさ)参りたり。「『やがて夜さり入らせ給ふべし。御供に候へ』と宣旨かうぶりて」とて、帰りも参らず。宮は「まづ帰りてを」とのたまはすれど、また蔵人の弁参りて、殿にも御消息あれば、ただ仰せ事にて、入らせ給ひなむとす。