枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

物語は

 物語は…。住吉物語。うつほ(宇津保)物語、特に「殿移り」のところね、でも「国譲り」は憎ったらしいわ。埋れ木。月待つ女。梅壷の大将。道心すすむる。狛野(こまの)物語は、古い蝙蝠(かはほり=扇)を探し出して持って行ったのがおもしろいの。物羨みの中将は、宰相に子どもを産ませておいて、形見の衣なんかを渡すように言ったのが憎らしいわね。それと、交野(かたの)の少将。


----------訳者の戯言---------

物語。それぞれの内容まで把握しなければと思っていると、現代語のダイジェスト版で読むだけでも結構たいへんで、しかも現代には残っていない物語もどんどん出てくるし、時間がかかりましたね。すみません。暑いですし。と、言い訳はほどほどにして、解説です。


住吉物語」は調べてみると、鎌倉初期に著された物語だそうです。継子いじめの代表作とされてるようですね。「シンデレラ」的な。ただ、ここでも出てきたとおり、物語の原型はすでに平安時代にあったようで、「源氏物語」にも名前は出てきてるらしいです。主人公は中納言の美しい娘なんですが、母は皇族の血を引く女性で、この娘を残して早逝します。この中納言のもう一人の妻(つまり美しい娘の継母)は実家がお金持ち。で、こちらには二人の娘がいるという、何となく継子いじめの臭いがプンプンする設定。当時こういうのは人気があったのでしょう。継母というと最近は綾瀬はるかの「ぎぼむす」なんですけどね。むしろ真逆です。


宇津保物語(うつほ物語)は以前「かへる年の二月廿余日」に出てきました。当時非常に人気があった物語のようです。詳細はリンク先をご覧ください。

では、あらすじを再掲しておきます。
最初の主人公は清原俊蔭という人。王族出身の秀才で若年にして遣唐使一行に加わって唐に渡る途上、波斯(はし)国に漂着し、阿修羅に出会って秘曲と霊琴を授けられて帰国、これらを娘に伝授します。俊蔭の死後、家は零落、娘は藤原兼雅との間に儲けた藤原仲忠を伴って山中に入り、杉の大樹の洞で雨露をしのぎ仲忠の孝養とそれに感じた猿の援助によって命をつなぎます。
「うつほ」は「空洞」のことなんですね。この母子が潜んだ大樹の洞にちなみ「うつほ物語」となったようです。

一方、源正頼の娘・貴宮(あてみや)が仲忠ら多くの青年貴族の求婚を退け、東宮(皇太子)妃となり、やがて皇位継承争いが生じる過程を描く物語ももう一つの柱となっているようです。
霊琴にまつわる音楽霊験談と貴宮をめぐる物語。この両者がからみあって展開するお話だそうで、琴の物語が伝奇的であるのに対し、後半の貴宮の物語は写実的傾向があるようですが、後の物語、つまり「源氏物語」などへと続く現存最古の長編小説であるのは確かで、高い評価もあるようですね。

で、その藤原仲忠、貴宮にはふられたものの、今上天皇の女一宮と結婚し、生まれた京極の屋敷跡で見つけた蔵の中にあった祖父の古い日記を発見…というくだりがあって、物語の後半にある「蔵開(くらびらき)」の巻なんですが、その巻に仲忠の父(藤原兼雅)が中の君という女性に家を用意して、殿うつり(引越し)をさせるという場面が出てきます。

おそらくこの「蔵開」の「殿うつり」のあたりがいいと思ったのでしょう。え?違いますか?

「国譲(くにゆずり)」というのも「うつほ物語」後半のにある巻の名前です。先に出てきた「蔵開」上・中・下巻の次に展開される部分。文字どおり、帝の後継者選びのお話です。ざっくり言うと、貴宮=藤壺の産んだ皇子と、仲忠の妹=梨壺の産んだ皇子ともに立太子の噂がながれ、どちらが皇太子になるのか世が騒然としてくる、という内容です。

清少納言的には、この部分は嫌いみたいですね。政治的な争いをダイレクトに描いてるこの巻は支持できないということなのでしょうか。


むもれ木=埋れ木。調べましたが、現存していないとのこと。いわゆる「逸書」(かつて存在していたが、現在は伝わらない書物)です。作者や筋書きについては完全に不詳。そんな物語あったの?って感じですね。

「月待つ女」(つきまつおんな)も逸書です。満たされない悲恋の物語であったらしいですが、詳しいストーリーや作者はわかっていません。

「梅壷の大将」も、調べてみたところ、逸書でした。

「道心すすむる」も作者不詳です。「道心」は仏道に帰依することで、表題の「道心すすむる」は「出家・入道を薦める」の意味。物語の中で詠まれた歌はいくつか残っているらしく、このタイトルや、男性の登場人物が多いと見られていることから、失恋苦を動機とする主人公の出家・入道の物語ではないかと推測されているようですね。

どれもこれも逸書ですね。
結局「松が枝」も「狛野(こまの)物語」も写本が現存しておらず、逸書です。

「ものうらや(物羨)みの中将」も逸書。清少納言の言うには、主人公であろう物羨みの中将が、宰相(という名の女性らしい)に自分の子供を産ませた上、母子を見捨てたのに、亡くなったら(子どもか女性が?)形見の衣を引き渡すよう求めた、という、その主人公の行動が気に入らなかったようですね、たぶんですが。

「交野(かたの)の少将」も逸書です。交野は現在の大阪府交野市とのこと。
鎌倉時代に編まれた物語和歌集「風葉和歌集」に、本作に出てくる和歌がいくつか採られており、その詞書から部分的に物語の筋書きを知ることができたそうですね。
あらすじは以下のようなものとなっています。
色好みで、しかも文才に長けた美男子として都で評判の「交野の少将」に郡司の娘が一目惚れをします。で、この交野の少将、鷹狩をした時に、郡司の館に泊まり娘と一夜を共にしたそうです。しかし、恋多き男である交野の少将は、娘が待てど暮らせど再び彼女の元を訪れることはなく、ただ月日が過ぎて行きます。絶望した娘は、ついに長淵と呼ばれる淵への身投げをするに至ります。自分の着物の端を引きちぎり、通りがかりの鵜飼いが灯していた篝火の炭で着物の端に辞世の歌を書き、それを彼に渡すよう言い残して、淵に身を沈めたのだそう。たしかに哀しい物語です。

ただ、通りがかった鵜飼いの人の心中を察すると、私、ちょっといたたまれないですね。後味悪いですよねーつらいですよ、これ。え、俺、止めたほうがいいの? それとも?的な。ストーリー的には身投げしてもらったほうが読者も盛り上がるだろうし。というわけで、鵜飼いは自殺を阻止することもなくスルー。娘もそこまでは考えが至らなかったのでしょう。でももう少し気遣いは欲しいです。自分だけ死んだらいいっていうものでもないような気がします。


というわけで、清少納言的押しの「物語」です。否、嫌いなところも書いてたりしますね。
しかし結局、「住吉物語」と「うつほ物語」以外は全部逸書でした。作者もストーリーも不詳です。

今なら、好きな連ドラをツイートしてるようなものかもしれませんね。「半沢直樹」「SUITS」は後世に残るかもしれませんが、「MIU404」「ナギサさん」「M 愛すべき人がいて」「竜の道」はたぶん残らないでしょう的な。田中みな実の演技は残るかもしれないですがね。それぞれいいドラマだとは思いますけど、残らないものもある、そういうことだと思います。「BG」は微妙ですけどね、シリーズ物ですから。「SUITS」はオリジナルのアメリカ版がかなりヒットしたらしいですから、その余波でそこそこイケるかもしれない、という程度かもしれません。そもそも地上波自体、というかTVそのものが微妙な時期に来ているんですよね。だから残りにくいんです。

というわけで、まだまだ「〇〇は」という段は、この後もしばらく続くようです。調べもの、コツコツやります、はい。


【原文】

 物語は 住吉。うつほ。殿うつり。国ゆづりはにくし。むもれ木。月待つ女。梅壷の大将。道心すすむる。松が枝(え)。こま野<の>物語は、古蝙蝠(かはほり=扇)探し出でて持て行きしがをかしきなり。ものうらやみの中将、宰相に子生ませて、かたみの衣など乞ひたるぞにくき。交野(かたの)の少将。

 

まんがで読む古典 1 枕草子 (ホーム社漫画文庫)

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