枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

正月十余日のほど

 正月の10日を過ぎた頃、空がすごく黒くって、雲も厚く見えながら、でも陽の光は鮮やかに差し込んでたんだけれど、身分の低い者の家の荒畑とかって言う、土がきれいに整えられてないところに、桃の木が若々しくって、細い枝がいっぱい出てるの、片方はすごく青くて、もう片方は濃い色でつやつやしてて蘇芳色になってるのが日の光に照らされて見えてるんだけど、とてもほっそりしてて、狩衣はひっかけて破れたりしてるけど髪はきちんとした子どもが登ってるから、着物をたくし上げてる男の子や、それに、ふくらはぎを出して短い靴を履いた男の子なんかが木の下に立って、「ボクに毬打(ぎちょう)を切って」なんて頼んでたら、さらに、髪の毛がきれいで、袙(あこめ)は綻んでて、袴もよれよれなんだけど、立派な袿(うちぎ)を着ている女の子たちが3、4人来て、「卯槌(うづち)にする木の良いのを、切って落として! ご主人様に差し上げるから」なんて言って、木を落としたら、奪い合いをして、上を仰ぎ見ては「私に多めにね」なんて言ってるのはおもしろいわね。
 黒袴をはいた男が走って来て、頼むんだけど、「もっと、って?」なんて言ったら、木の幹を揺さぶるもんだから、怖がって猿みたいに木にしがみついてわめいてるのもおもしろいわ。梅の実がなる頃にも、こんな風なこと、してるみたいよね。


----------訳者の戯言---------

蘇芳色というのは、これまでにも何回か出てきてるんですが、蘇芳という植物で染めた黒味を帯びた赤色です。
小枝に日光があたって赤っぽく光ってる感じでしょうか?

毬打(ぎちょう)と出てきますが、毬杖(ぎちょう)とも書くようです。読み方はぎちょう、ぎっちょうとも言ったようですね。詳しくは下記リンクをご覧いただくとよくわかります。
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/emaki7

というわけで、毬杖っていうのは、正月とかによくやった遊びというか、スポーツというか、フィールドホッケーみたいな感じのゲームです。
実は、この段でも出てきましたように毬杖の道具、というかスティック的なものもたぶん毬杖と言ったんでしょう、スノーボードにおけるスノーボードみたいなもんですね。
で、これに使ったそのスティック的道具を、お正月が終わった頃に3本立てて15日か18日かに焼いたのを左義長(三毬杖/さぎちょう)と言ったらしいです。で、この左義長が、庶民に広まったのが、今もあるとんど焼き、とか、どんど焼きとも言われる行事なんだそうです。
このことは「徒然草」に書いてありまして、拙ブログの「第百八十段 左義長(さぎちょう)は」もご覧いただけると幸いです。

袙(あこめ)というのは、「男性が束帯装束に着用するもの」で、「宮中に仕える少女が成人用の袿(うちき)の代用として用いた」着物だそうです。この段で書かれていることから推察すると、女の子たちは袙を着てるけど、袿も着ているようです。そういう着方もあったんでしょうか。年齢とか身長とか、その時のトレンドとかによっても違うのかもしれません。

卯槌(うづち)というのは、コトバンクによると「平安時代、正月初の卯の日に中務省の糸所(いとどころ)から邪気払いとして朝廷に奉った槌。桃の木を長さ3寸(約9センチ)、幅1寸四方の直方体に切ったもので、縦に穴をあけ、5色の飾り糸を5尺(約1.5メートル)ばかり垂らし、室内にかけた」というものらしいです。形としては四角い棒、ですね。
邪気払いのためのアイテム。役割としてはドラクエの聖水みたいなもんですね。違いますね。

今回は、お正月過ぎの日常のワンシーンです。
出だしは、非常に絵画的。で、子どもたちの戯れる様子へと描写が変わります。
のどかな感じです。おもしろいか?と言われれば、それほどはおもしろくありません。


【原文】

 正月十余日のほど、空いと黒う、雲もあつく見えながら、さすがに日はけざやかにさし出でたるに、えせ者の家の荒畠といふものの、土うるはしうも直からぬ、桃の木のわかだちて、いと細枝がちにさし出でたる、片つ方はいと青く今片つ方は濃くつややかにて蘇芳の色なるが日陰に見えたるを、いと細やかなる童の狩衣はかけ破りなどして髪うるはしきが、上りたれば、ひきはこえたる男児、また、小脛にて半靴(はうくわ)はきたるなど、木のもとに立ちて、「我に鞠打(ぎちやう)切りて」などこふに、また、髪をかしげなる童の、袙どもほころびがちにて、袴萎えたれど、よき袿着たる三四人来て、「卯槌の木のよからむ、切りておろせ。御前にも召す」などいひて、おろしたれば、うばひしらがひ取りて、さし仰ぎて、「我におほく」など言ひたるこそをかしけれ。

 黒袴着たる男(をのこ)の走り来て乞ふに、「まして」などいへば、木のもとを引きゆるがすに、あやふがりて猿のやうにかいつきてをめくもをかし。梅などのなりたる折も、さやうにぞするかし。

 

本日もいとをかし!! 枕草子

本日もいとをかし!! 枕草子