枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

なほめでたきこと①

 やっぱりすばらしいのは、臨時の祭の時のことじゃないかしらね。舞楽のリハもすごくいいのよ。

 春は空の様子ものどかでうららかなんだけど、清涼殿の御前に掃部司が畳を敷いて、勅使は北向きに、舞人は御前の方に向いて、これらは間違って覚えてるかもしれないけど、蔵人所の衆たちが衝重(ついがさね)を持ってきて、席の前に並べてるの。楽団員たちも、そこの庭でお食事をいただく時だけは帝の御前で出入りするのよね。公卿や殿上人が代わる代わる杯をとって、最後には屋久貝っていうものでお酒を飲んで席を立ったら、すぐに「とりばみ」っていうの、これは男なんかがやったってすごくヤな感じなのに、御前の庭には女まで出て来て取るのよね。思いがけずに、人がいるとも思えない火焼屋(ひたきや)から急に出て来て、たくさん取ろうって騒ぐ者が、なかなか取れないで取りこぼしてるうちに、軽やかにささっと取っていっちゃう者には後れをとって。しかるべき保管場所として火焼屋を使って、運び込んでるのはすごくおもしろいわ。掃部司の者たちが畳を取り払うと、遅いよ!って、主殿司の役人が手に手に箒を持って、砂を馴らしていくの。


----------訳者の戯言---------

臨時の祭というのは、これまでにも何度か出てきました。清少納言はその頃のことが好きみたいですね。
臨時の祭っていうのは、例祭ではない祭のことらしいですが、一般には賀茂神社(11月)、石清水八幡宮(3月)の臨時の祭だそうです。
まいて、臨時の祭の調楽などは」という段でも、舞楽のリハーサルをやってる風景が描かれていました。あれは賀茂神社の臨時の祭の時でした。

掃部司(かもりづかさ/かにもりのつかさ/かもんづかさ/かもんのつかさ)は、宮中の掃除や設営のことをつかさどった役所だそうです。

衝重(ついがさね)というのは、食膳=食器台の一つです。四方に大きく格狭間を透かした台に折敷を重ねたもの、だそうです。

陪従(べいじゅう)は舞楽の楽人、ミュージシャンのことです。殿上人ではありませんから、通常は清涼殿で天皇の御前には出られない身分ですが、この時ばかりは出入りできたようです。

屋久貝(夜久貝/やくがい)は夜光貝(やこうがい)のことだそうです。リュウテンサザエ科の巻き貝で、食用とされたらしい。元々、屋久島から献上されたことから「やくがい」と呼ばれたそうです。

「とりばみ」というのは「取り食み」と書くそうです。宴会の料理の残りを庭に投げて、下人などに食べさせたんだそうですね。なんか嫌な感じですね。この投げられたものをそ食べる人のこともこう言ったようです。

火焼屋(ひたきや)とは、宮中で、庭火やかがり火をたいて夜を守る衛士の詰めていた小屋のことだそうです。

この段は長いので、また何回かに分けて読んでいきたいと思います。
春、とありますから、ここで描かれてるのは石清水八幡宮の臨時の祭の時のことと思われますね。清涼殿の庭でリハーサルが行われるようなんですが、その様子のようです。お食事とかもふるまわれて、「とりばみ」なんかがあったり、畳を片付けて庭の砂を馴らす様子が描かれています。

さて、この後どのようなことが起こるのでしょうか。②に続きます。


【原文】

 なほめでたきこと 臨時の祭ばかりのことにかあらむ。試楽もいとをかし。

 春は、空のけしきのどかにうらうらとあるに、清涼殿の御前に、掃部司(かもんづかさ)の、畳をしきて、使は北向きに、舞人は御前のかたに向きて、これらは僻おぼえにもあらむ、所の衆どもの、衝重(ついがさね)取りて、前どもにすゑわたしたる。陪従も、その庭ばかりは御前にて出で入るぞかし。公卿、殿上人、かはりがはり盃取りて、はてには屋久貝といふものして飲みて立つ、すなはち、とりばみといふもの、男などのせむだにいとうたてあるを、御前には、女ぞ出で取りける。おもひかけず、人あらむとも知らぬ火焼屋(ひたきや)より、にはかに出でて、おほくとらむと騒ぐものは、なかなかうちこぼしあつかふほどに、軽らかにふと取りて往ぬる者には劣りて、かしこき納殿(おさめどの)には火焼屋をして、取り入るるこそいとをかしけれ。掃部司の者ども、畳とるやおそしと、主殿の官人、手ごとに箒取りて砂(すなご)馴らす。