枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

正月に寺にこもりたるは⑤ ~日ごろこもりたるに~

 何日も籠ってるんだけど、はじめのうちはお昼は少しのんびりしてたの。僧侶の宿坊に、従者の男たちや女、子どもたちがみんな行ってしまって、退屈にしてたら、傍で法螺貝をいきなり吹き出したのにはすごくびっくりしたわ。きれいな立文(たてぶみ)をお供に持たせた男性なんかが誦経のお布施の品物を置いて、堂童子なんかを呼ぶ声が、やまびこのように響き合って、きらきらと輝いてるみたいに聞こえるの。鐘の音がいっそう響きわたって、どの人の誦経なんだろう?って思ってた時、高貴な方のお名前を言って、「お産が無事でありますように」なんて、効験がありそうに祈願するのを聞くと、何とはなしに、どうなんだろ?とかって、お産の安否が気がかりで、祈りたくなっちゃうの。これは普通の時のお話なのね。でもお正月なんかは、ただすごく騒がしいだけなの。昇進を望んでる人たちが、絶え間なく参詣するのを見てたら、自分のお勤めにも身が入らないというもんだわ。


----------訳者の戯言---------

「立文(たてぶみ)」というのは、書状の形式の一つで、書状(本文を書いた書面)を「礼紙(らいし)」という別の紙で巻き包み、さらに白紙の包み紙で縦に包み、余った上下を裏側に折るもの、だそうです。正式で儀礼的な書状の包み方らしいですね。どんだけ丁寧やねんと思いますが、そういうものなのでしょう。

童子(どうどうじ)というのは、寺院で雑役をつとめる、僧の姿をしていない少年のことを主に言ったそうです。主にと書いたのは、実は児童の域を超えているにもかかわらず「童形(どうぎょう)」の姿のままでいた人々も結構いたようなんですね。「童形」というのは、結髪していないスタイルのこと、このアンチ結髪の人のことは概ね「童子」と言ってたようです、大人とかでも。すなわち「堂童子」=「お寺にいる童形の人」ということなのでしょうね。

で、「結髪」と言いますが、武家では所謂「髷」「ちょんまげ」が有名ですが、公家はどうだったんでしょうか。そういえば冠とか烏帽子に隠れれててあまり見たことなんですよね。というわけで、探したのですが、コトバンクに載ってました。「冠下髻(かんむりしたのもとどり)」と言うらしいですね。こんな感じです。↓
冠下髻

「げんげんしげ」というのがどうしても意味がよくわからないんですね。「げんげんし」も「げんげん」という語も「げんし」もないんですね、古語に。何じゃこりゃ?
「げん」などという語はありすぎるくらいあるだろうと思って、あきらめつつ調べてみたんですが、「げん」というのは古語としては案外少ないんです。大宰府の三等官を表す「監(げん)」と、仏道の修行を積んだしるしとしての効験、あるいは加持・祈?や祈願などの効き目、霊験などを表す「験(げん)」の二つが主なものでした。
それならわかりやすいです。この段の「げんげんしげ」の「げん」は「験」、「験験しげ」であることと察しがつきます。(たぶん)効験(こうけん)ですね。もっと簡単に言うと、「祈願の効き目」という意味でしょう。

さて本題。さらに、お籠りイベントのレポートが続きます。やはり案外、大した事件は起こらなくて、この段はこんな感じに終始するのかなーという気がしてきました。
藤原行成藤原実方のような男前も出てはこず、源方弘のようなおもしろキャラも出てきません。定子や道隆ほか中関白家の人たちも登場しませんしね。
というわけで⑥に続きますが、こんな感じで続いていくのでしょうか。


【原文】

 日ごろこもりたるに、昼は少しのどやかにぞ、はやくはありし。師の坊に、男ども、女、童など、みな行きて、つれづれなるも、かたはらに貝をにはかに吹き出でたるこそ、いみじうおどろかるれ。清げなる立文持たせたる男などの、誦経の物うち置きて、堂童子(だうどうじ)など呼ぶ声、山彦響きあひてきらきらしう聞こゆ。鐘の声響きまさりて、いづこのならむと思ふほどに、やむごとなきところの名うち言ひて、「御産(ごさん)たひらかに」など、げんげんしげに申したるなど、すずろにいかならむなどおぼつかなく念ぜらるかし。これはただなるをりのことなめり。正月などはただいとさわがしき。物望みなる人など、ひまなく詣づるを見るほどに、おこなひもしらず。

 

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上