枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

見苦しきもの

 見苦しいもの。っていうと、衣の背中の縫い目を肩の方に寄せて着るの。また、抜き衣紋の着方をしてるのもね。
 慣れてない人の前に子供をおぶって出てきた人。僧侶や陰陽師が紙冠を着けてお祓いをしてるところもだわ。
 色黒で醜くって添え髪をした女と、髭面でやつれて痩せこけた男とが、夏に昼寝してるのはすごく見苦しいわね。何のメリットがあって、そうやって昼寝なんかしてるのかしら。夜なんかだと姿かたちも見えないし、それにみんな揃って寝てるわけだから、自分が醜いっていっても夜に起き続けてる必要なんてないだろうし。
 早朝は早く起きるのが、すごく見た目がいいっていうものよ。夏に昼寝をして起きる時の様子は、身分の高い人ならもうちょっといい感じだろうけど、ルックスのイケてない人なんかだと、ギラギラしてて、目が腫れぼったくて、最悪頬が歪んでたりしてて。それをお互いに見合ったりした時には、生きてる価値もないわ、ってね。

 痩せてて色黒な人が、生絹の単を着てるのも、すごく見苦しいの。


----------訳者の戯言---------

のけ頸=仰け領(のけくび)というのは、「抜き衣紋」のことだそうです。しかし、抜き衣紋自体がわかりません。と思って調べたら、「和服の後ろ襟を引き下げ、襟足を出した着方。現在は女性の着方」とあります。
つまり、襟の後ろをずらして首もとを開けて着ることになり、自ずと女性の色気を醸し出すもののようですね。元々は髪の結い方によって、襟にかかってしまうのを避けるために後ろにずらしたそうですから、ヘアスタイル次第で変えるというのが正しいのかもしれません。

「紙冠」(かみかぶり/かみこうぶり)というのは、祈祷の時、法師や陰陽師が額に付けた三角形の紙のことを言うらしいです。中世以後、死者につけさせる風習ができたらしく、棺桶のご遺体につけたりすることもあります。幽霊が額につけている三角のあれですね。マンガやコントでおなじみというか、逆に笑っちゃう感じにもなるので、今は棺桶に入れるだけ、というケースも多いようです。
しかし、当時からあまりかっこいい装束ではなかったようですね。

鬘(かづら)というのは、「添え髪」とか「かもじ」のことだそうです。つまり、ウィッグとかヘアエクステンション(エクステ)ですね。まあ、当時は自毛が長くたっぷりあるのが良かったんでしょう。

原文にある「かたみに」という語は、「互いに」「かわるがわる」ということだそうです。

「生絹(すずし)」というのは、生糸で織った練られていない絹織物。これに対して「練り絹」というものがあるそうです。これは生絹をあとから精練(「錬」ではありません)したり、また、練り糸で織った絹織物のことを言うんだそうですね。
では、絹を「練る」「精練」とはどういうことなのでしょうか。そもそも生糸はセリシンとフィブロインの2種類のたんぱく質からできているそうで、フィブロインの表面をセリシンが覆っている感じらしいですね。で、灰汁の入ったお湯で煮てこのセリシンを取り除くのが、「練る」という作業なのだとか。ざっくり言うとそういうことらしいです。
練った絹織物はしっとりと柔らかく光沢があるんですが、精練していない生絹は、固く張りのある感触で、軽いので現代だと夏用の着物とかに使われるようです。女性はおわかりになると思いますが、ドレスとかに使うシルクオーガンジーも生絹の一種らしいですね。

まあ、服をちゃんと着てないのが嫌というのはわかります。今みたいに着くずしとかルーズフィットみたいなおしゃれはなかった時代ですからね。

色黒とか、不細工とか、毛量が少ない女とか、髭面の男とか、そういうのが、清少納言的には見苦しいらしいです。ま、だいたい高貴な人大好きで、身分の低い人全般は馬鹿にしてますから、そうもなるでしょう。身分が低くてルックスがダメな奴は生きてる価値が無い、みたいなことまで言ってますからね、「お前ら逝ってよし」ですから。今なら大炎上ですよね。相当な性悪女です。

清少納言ファンの方には申し訳ないですけど、「当時の常識だった」で片づけられる問題でしょうか。私は違うと思いますね。


【原文】

 見苦しきもの 衣の背縫、肩によせて着たる。また、のけ頸したる。例ならぬ人の前に子負ひて出で来たる者。法師、陰陽師の、紙冠(かみかぶり)して祓(はら)へしたる。色黒う憎げなる女の鬘(かづら)したると、鬚がちに、かじけやせやせなる男と夏昼寝したるこそいと見苦しけれ。何の見るかひにてさて臥(ふ)いたるならむ。夜などは形も見えず、またみなおしなべてさることとなりにたれば、我は憎げなるとて起きゐるべきにもあらずかし。さてつとめてはとく起きぬる、いとめやすしかし。夏昼寝して起きたるは、よき人こそ今少しをかしかなれ、えせかたちはつやめき、寝腫れて、ようせずは、頬ゆがみもしぬべし。かたみにうち見かはしたらむほどの生けるかひなさや。

 やせ、色黒き人の生絹(すずし)の単衣(ひとへ)着たる、いと見苦しかし。

 

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

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