はるかなるもの
気が遠くなるもの。半臂の緒をひねるの。陸奥の国に行く人が逢坂の関を越える頃。生まれた赤ん坊が大人になるまで。
----------訳者の戯言---------
半臂(はんぴ)というのは、袍(ほう/うへのきぬ=上着)と下襲 (したがさね) との間につける袖のない短い衣です。ベスト的なものでしょうか。これを着て結ぶ帯を小紐 (こひも)、さらに左脇に垂らす飾り紐を忘れ緒 (お) と言うらしい。ここで出てきた「緒」というのは、この忘れ緒のことのようです。長さ八尺(約2.4m)、幅二寸五分(約7.5cm)、または一丈二尺(約3.6m)、幅三寸三分(約9.9cm)の羅(うすもの)を三重に折り畳んで使ったらしいです。
私もド素人でよくわからないんですが、これ、折って糊で貼り合わせたみたいなんですが、その時、まず指でひねって付けはじめたんでしょうか、たぶん。ま、2.4メートルとか3.6メートルとか、めっちゃ長いですから、結構気の長い作業ですね。めんどくせー、って感じなんでしょう。
逢坂というのは、逢坂の関のことです。京都と滋賀県の大津の間の逢坂山にあった関所ですね。昔だと山城国と近江国の国境です。畿内の東端という位置付けだったらしいです。
逢坂の関というと、蝉丸という人の詠んだ「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」という歌が超有名です。百人一首の歌ですね。この蝉丸という人は、詳細はよくわかってないらしいんですが、盲目で琵琶の名人だったようですね。一説によると少し前に書いた「無名といふ琵琶の御琴を」に出てきた琵琶「無名」を愛用したらしいです。逢坂の関の辺りに住んでたとか。
で、もう一つ有名なのは、清少納言の本人の作で小倉百人一首にも入っている「夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも よに逢坂の 関はゆるさじ」という歌です。 直訳すると「夜が深いうちに鶏の鳴き真似をして騙そうとしても、逢坂の関は絶対に通させないでしょうね!」となります。何やら意味深ですが、それはまた別の機会に。
で、本題です。
気が遠くなるもの、です。一般には、同じ「はるかなるもの」でも、視点が多様だよねーという高評価なのでしょうが、私はまあこんなものかなーと思いました。すみません。
短いので読みやすかったですが、忘れ緒とか蝉丸の琵琶とか、清少納言の歌とか、調べてたら、時間がかかってしまいました。
【原文】
はるかなるもの 半臂の緒ひねる。陸奥国へ行く人、逢坂越ゆる程。生れたるちごの、大人になる程。