便なき所にて
都合の悪いところで男子と逢ってたんだけど、胸の鼓動がすごく速くなったのを、「何でそんなにドキドキしてるの??」って言ったその男に
逢坂(あふさか)は胸のみつねに走り井の 見つくる人やあらむと思へば
(逢坂、、逢う時は走り井が湧き出すみたいにいっつも胸が騒いでるの、誰か、私たちを見つける人がいるんじゃないか?って思うとね)
ってね。
----------訳者の戯言---------
「便なき」というのは、「便なし」の連体形で、都合の悪い〇〇、具合の悪い〇〇、ということになります。
逢坂の関は、歌枕でもあり、この枕草子でも何度も出てきます。
関の清水、関水、という語も和歌には幾度も出てきており、やはりこの近くに湧き水があったのはたしかなようですね。
井戸というと一般には穴を掘って地下水を汲み上げる場所ですが、掘削した井戸ではなく泉や流水から飲み水を汲みとるところも井(走り井)と言います。
具合の悪い所ということですから、人目を避けて逢う、誰かに見られてはまずい、いわゆる、忍び逢いと言われるようなものなのでしょう。
「逢う」というキーワードを「逢坂」という歌枕で表して、気持ち、感情の迸り、湧き上がる思いを、その逢坂の名物でもある「走り井」の湧き出す様子に喩えるという高等テクニックです。
ま、あたしもこういう恋をするのよ、フフフ、とでも言いたかったのか!?
【原文】
便なき所にて、人に物を言ひけるに、胸のいみじう走りけるを、「など、かくある」と言ひける人に、
逢坂(あふさか)は胸のみつねに走り井の見つくる人やあらむと思へば