かへる年の二月廿余日④ ~職へなむ参る~
(頭の中将が)「『中宮職』の庁舎に参上するんだけど、伝言はありますか? あなたはいつ参上されるんです?」なんておっしゃって。「それにしても昨日は夜を明かさずに帰ってきてね、時間帯的にそれはまぁそれで仕方無いっちゃ仕方無い部分もあるだろうけど、前もってそう言ってたんだから待ってるだろうって。月がとっても明るい中、西の京っていうところから帰って来てすぐに局の戸をたたいたら、かろうじて寝ぼけながら起きてきた様子、で、応対のそっけないこと!」なんて語って、お笑いになるのね。「まったく不愉快だったよ。どうしてあんな者をおいてるの?」っておっしゃるのよ。たしかにそうだったんでしょうね、おかしくもあり、可哀そうでもありますわね。
しばらくして、斉信様は出ていかれたの。外から見る人は、いい雰囲気だったから、御簾の内にはいったいどんな素敵な女性がいるんだろうって思うでしょう。逆に奥の方から私の後ろ姿を見た人からすると、まさか外にそんな素敵な男性がいるとは思わないんでしょうね。
----------訳者の戯言---------
この段の①にも書きましたが、「中宮職」は皇后に関する事務全般をやっていた中務省に属する役所です。
原文で「思ひうんじ~」という語が出てきました。これは「思ひうんず=思ひ倦んず」という他動詞で「不快に思う」という意味だそうです。こそ+動詞の連用形+に+しか(過去の助動詞「き」の已然形)という係り結びです。古文の授業であれば、だいたいこんな感じで品詞分解しますね。
さて、清少納言と藤原斉信のこの御簾越しのやりとり。そのやりとりが清少納言的にはおもしろくて、見た感じもなかなかいかしてたというわけですね。
さてどういう顛末が待っているのでしょうか? ⑤に続きます。
【原文】
「職へなむ参る。ことづけやある。いつか参る」などのたまふ。「さても、昨夜(よべ)明かしもはてで、さりともかねてさ言ひしかば待つらむとて、月のいみじう明かきに、西の京といふ所より来るままに、局を叩き<し>ほど、からうじて寝おびれ起きたりしけしき、いらへのはしたなき」など語りて笑ひ給ふ。「<むげ>[げむ]にこそ思ひうんじにしか。などさる者をば置きたる」とのたまふ。げにさぞありけむと、をかしうもいとほしうもあり。
しばしありて出で給ひぬ。外より見む人はをかしく、内にいかなる人あらむと思ひぬべし。奥の方より見出だされたらむ後ろこそ、外にさる人やとおぼゆまじけれ。
検:かへる年の二月廿日よ日
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