枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、「わかりやすい」「初心者向け」となっているとは思いますがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

頭の中将の、すずろなるそら言を聞きて④ ~みな寝て、つとめて~

 みんな寝てしまって、翌日は早朝から局に下がってたんだけど、中将の源宣方の声で「ここに『草の庵』はいます?」って、大げさに言ってきたもんだから、「変なのー。なんでそんなみすぼらしげな者がいるっていうの? いないわよ。『玉の台(うてな)』って言ってお探しなのなら、お答えもできるでしょうけどね」って、言ったの。

「ああよかった。下の局にいたんですね。上の御局を尋ねようとするところでしたよ」

って、昨夜のいきさつを、

「頭中将の宿直所(とのいどころ)に、少し気の利いてる人はみんな、六位の者までもが集まってですね、いろんな人の噂話を昔から今に至るまで、おしゃべりしてて、そのついでに頭中将がこう語ったんですよ。『彼女とはすっかり絶交しちゃったんだけどね、やっぱそのままにしておくなんてできないし。もしかして何か言ってくるんじゃないかって待ってたんだけど、彼女ときたら全然何とも思ってない、つれない感じで、それもすごく憎ったらしくてさ、今夜こそこのままじゃイケナイのか、それともこれでOKか、はっきりと決着をつけちゃおう』って。で、みんなで相談して書いた文を持たせて遣わしたんだけど、『《今すぐには見ない》って部屋に戻って行っちゃいました』ってメッセンジャー役の主殿司が言って来たもんだから、また追い返してね、『とにかく手を掴んで身動きできないようにしてでも、有無を言わさず返事をもらってくるか、GETできないんだったら、持ってった手紙自体返してもらって来てよ』って戒めて、あんなに降ってる雨のさ中に行かせたら、すごく早く帰ってきたんですね。で、『これです』って、差し出したのが、さっきのあの手紙だったから、返事が来たんだと思って、見た瞬間すぐに叫び声を上げて、『わからんねー。どゆこと?』って、みんな寄って来て見たら、『(藤原公任の下の句をそのまんま持ってくるなんて)なんてすごい盗人なんだろ。やっぱこのまま絶交したままにはできないなぁ』って、手紙を見て大騒ぎして、『これの上の句を付けて送ろう、源中将何かつくってよ』なんて、夜更けまで、上の句を付けるのに悩んで、結局付けられずに終わったことは、『今後ずっと語り継がれるエピソードだろうよね』とかって、みんなで決定したわけなんですよ」

なんて、こっちがとっても恥ずかしくなるくらいまで語って、

「今、あなたの名前を『草の庵』って付けました!」

と言って、急いでお立ちになったから、

「そんなめちゃくちゃ印象悪い名前が後世に残っちゃうのはやだわね」

って言ってたら、今度は(元夫の)修理の亮、橘則光がやってきて、

「すごく喜ばしいことを申し上げようって、中宮の御局のほうに居るんじゃないかって、参上したところなんだよね」

だって。

「どうしたのよ。人事異動があるって話も聞かないんだけど、何におなりになったの?」

って質問したら、

「いやいや、ほんとにすごくうれしいことが昨日の夜にあってね、早く知らせたくて夜が明けるのが待ち遠しいくらいだったんだ。こんな誇らしい気持ちになることって今まで無かったよ」

と、最初っから事の次第を、中将がお話しになったのと同じことを言って、

「『ただ、この返事の内容次第では、今後の付き合いはやめてしまうしかないね。一切そんな者がいたってことさえ考えないようにしよう』って頭中将がおっしゃったから、みんなである限りの知恵を絞って、お送りになったんだけど、使いのメッセンジャーがただ手ぶらで帰ってきたのは、かえって良かった、ホッとしたんだよ。で、その後で返事を持って帰ってきた時は、どうしたもんだろう、ってドキドキしちゃってね、ほんとにダメダメな内容だったら、兄貴分の自分にとっても体裁が悪いことになるんじゃ、って思ってたんだけど、そんなじゃなくって、そこにいた人たちみんなが褒めたたえて、『お兄さん、こっちに来て。これ聞いてよ』っておっしゃったもんだから、内心はめちゃくちゃうれしかったんだけどね、『そういう和歌の方面には、そんなにお付き合いできないほうですから』って申したら、『意見を言えとか、聞いて理解しろっていうんじゃないんだ。ただ、彼女本人に話してやれってことで、聞かせるんだよ』っておっしゃるの、それはちょっと兄貴分としては、情けない言われようだったけど、みんなが上の句を付けようとトライしても、『どうにも付けようがないねぇ。実際問題、この手紙に返歌するべきなのかな?』なんて相談しあって、『全然だめじゃん、とか言われたら、逆に悔しいからね』って夜中まで話し合ってたよ。これは、私にとっても、あなたにも、すごくHAPPYなことじゃないですか! それに比べたら、人事異動で少々の官位をもらったとしても、そんなの何とも思わないくらいのことだよ」

って言うから、ほんと、大勢の人たちでそういうことを画策してたとは知らないで…忌々しい思いをするところだったんじゃないのかナって、そう考えたら、胸がつぶれるような気持ちになったの。こうやって「妹」「兄」っていう関係は帝までみんな周知のことで、殿上の間でも彼は官名で呼ばれないで「兄人(しょうと)」って呼ばれてたのよね。


----------訳者の戯言---------

④の冒頭部分の下り。
「掘立小屋ちゃん、いますかぁ?」「いやいやいやいや、セレブリティレジデンス姫っていう人だったら、たぶんいるんじゃないかしらねー」ぐらいのくだらん会話です。
センスが古臭いんですね。当たり前ですか、平安時代ですもんね。

修理の亮(すりのすけ/しゅりのすけ)則光というのは橘則光のことだそうです。修理というのは正確に言うと「修理職(すりしき/しゅりしき)」で、平安時代に設置された令外官です。主に内裏の修理造営を司る部署でした。亮(すけ)は次官。ここで登場した橘則光は、清少納言の元夫。後半に書かれていますが、離婚した後も兄妹のような友好的な関係だったらしく、周囲もそれを認めていたようです。

原文にある「司召」というのは人事異動のことだそうです。

こかけをしふみし=こ影をし踏みしというのは、意味が判明してないそうです。文脈から推察して「今後は関わらないようにしよう」的な訳になりました。

しかし、出てきた男の人たち、喋りすぎでしょう。みんな意外と饒舌、おしゃべり男です。いずれも悪い人ではなさそうですけどね。

概ね逸話の内容がわかりました。
あと少し。⑤に続きます。


【原文】

 みな寝て、つとめていととく局に下りたれば、源中将の声にて、「ここに草の庵やある」と、おどろおどろしくいへば、「あやし。などてか、人げなきものはあらむ。『玉の台(うてな)』と求め給はましかば、いらへてまし」といふ。

 「あな、うれし。下<に>[と]ありけるよ。上にてたづねむとしつるを」とて、昨夜(よべ)ありしやう、頭の中将の宿直所に、少し人々しき限り六位まで集まりて、よろづの人の上、昔今と語り出でて言ひしついでに、「『なほこの者、むげに絶えはてて後こそ、さすがにえあらね。もし言ひ出づることもやと待てど、いささか何とも思ひたらず、つれなきもいとねたきを、今宵あしともよしとも定めきりてやみなむかし』とて、みな言ひあはせたりしことを、
『「ただ今は見るまじ」とて入りぬ』と、主殿司が言ひしかば、また追ひ返して、『ただ、手を捉へて、東西せさせず乞ひ取りて、持て来ずは、文を返し取れ』といましめて、さばかり降る雨のさかりに遣りたるに、いととく帰り来、『これ』とて、さし出でたるが、ありつる文なれば、返してけるかとてうち見たるに、あはせてをめけば、『あやし。いかなることぞ』と、みな寄りて見るに、『いみじき盗人を。なほえこそ思ひ捨つまじけれ』とて見騒ぎて、『これが本つけてやらむ。源中将つけよ』など、夜ふくるまでつけわづらひてやみにしことは、『行く先も、かたり伝ふべきことなり』などなむ、みな定めし」など、いみじうかたはらいたきまで言ひ聞かせて、「今は御名をば『草の庵』となむつけたる」とて、急ぎ立ち給ひぬれば、「いとわろき名の、末の世まであらむこそ、口惜しかなれ」といふほどに、修理(すり)の亮(すけ)則光(のりみつ)「いみじきよろこび申しになむ、上にやとて参りたりつる」といへば、「なんぞ。司召(つかさめし)なども聞こえぬを、何になり給へるぞ」と問へば、「いな、まことにいみじう嬉しきことの、昨夜(よべ)侍りしを、心もとなく思ひ明かしてなむ。かばかり面目(めいぼく)あることなかりき」とて、はじめありけることども、中将の語り給ひつる同じことを言ひて、「『ただ、この返りごとにしたがひて、こ影をし踏みし(?)、すべて、さる者ありきとだに思はじ』と頭の中将のたまへば、ある限りかうようして遣り給ひしに、ただに来たりしは、なかなかよかりき。持て来たりし度(たび)はいかならむと胸つぶれて、まことにわるからむは、兄人(せうと)のためにもわるかるべしと思ひしに、なのめにだにあらず、そこらの人のほめ感じて、『兄人(せうと)こち来。これ聞け』とのたまひしかば、下心地(したごこち)はいとうれしけれど、『さやうの方に、さらにえ候ふまじき身になむ』と申ししかば、『言(こと)加へよ、聞き知れとにはあらず。ただ、人に語れとて聞かするぞ』とのたまひしになむ、少し口惜しき兄人<の>おぼえに侍りしかども、本(もと)付け試みるに、『いふべきやうなし。ことにまたこれが返しをやすべき』など言ひあはせ、『わるしと言はれては、なかなかねたかるべし』とて、夜中までおはせし。これは、身のため人のためにも、いみじきよろこびに侍らずや。司召に少々の司得て侍らむは何ともおぼゆまじくなむ」といへば、げにあまたしてさることあらむとも知らで、ねたうもあるべかりけるかなと、これ<に>[ら]なむ、胸つぶれておぼえ<し>[り]。このいもうと、兄人といふことは、上までみな知ろしめし、殿上にも、司の名をば言<は>[か]で、兄人とぞつけられたる。


検:頭の中将のすずろなるそら言を聞きて

 

現代語訳 枕草子 (岩波現代文庫)

現代語訳 枕草子 (岩波現代文庫)