頭の中将の、すずろなるそら言を聞きて⑤ ~物語などしてゐたるほどに~
そうして、おしゃべりなんかしていたら、「ちょっと」って中宮さまに呼ばれたから、御前に参上したところ、ちょうどこの件をお話しなさってるところだったの。「帝がこちらにおいでになって、お話して聞かせてくださったの。男の人たちはみんなあの返歌を扇に書き付けて、持ってるんですってよ」なんておっしゃるけれど、ほんと呆れてしまっちゃうコトで、いったい何が私にあんなことを思いつかせたのかと思って。
でもその後、頭の中将も袖で顔を隠すようなことはやめちゃって、私に対する接し方も思い直したようでしたわ。
----------訳者の戯言---------
例によって、自慢話披露の段です。
③でも少し書きましたが、たしかにこれ、「白氏文集」と「大納言公任集」の内容を「そら」で言えるくらい熟知してないと清少納言のこの「返し」はできないんですね。機転も利いています。さすが。
で、当然のことながら、④では方々から絶賛、感心され、元夫なんかは自分の名誉のごとく喜んでいて、その様子がまた彼女のプライドを満たしてくれるという多重構造の自画自賛。
ま、そもそも頭の中将(藤原斉信)からあらぬ理由で、そしりを受けていたわけで、それを覆すほどのリプライを返すことができ、結果、斉信も改心したという、めでたしめでたしのお話ということで、単なる自慢話ではなく、清少納言に同情できるというのが、この段の肝です。
藤原斉信が定子サロンに出入りしていた頃、ということはまだ長徳の変が起こる前。以前登場した藤原行成、ずいぶんなおしゃべり源中将(=源宣方)、それに元夫で今は兄妹のような仲の橘則光、といった面々との華やかな関わり合い。後年、中宮彰子を擁して政治的に藤原道長が強大な権力を持ち、これとは逆にパワーダウンしていった中関白家、その没落前の光景の一つなのでしょう。
後に道長の側近として重用されるに至る藤原斉信に一泡吹かせた形になっているのは、そもそも意図したものなのかもしれない、と私は思います。
しかし長いです。この段、GW明けから読み始めて今までかかりました。いろいろ用事もあったものの、時間かかりましたねー。結構、疲れました。この後も長い段がかなりあります。私、読み続けられるのでしょうか??
【原文】
物語などしてゐたるほどに、「まづ」と召したれば、参りたるに、このことおほせられむとなりけり。「上わらはせ給ひて、語り聞こえさせ給ひて、をのこどもみな扇に書きつけてなむ持たる」など仰せらるるにこそ、あさましう、何の言はせけるにかとおぼえしか。
さて後ぞ、袖の几帳など取り捨てて、思ひなほり給ふめりし。
検:頭の中将のすずろなるそら言を聞きて
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