枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

にくきもの①

 憎ったらしいもの。急ぎの用事がある時に来て長話するお客。どうでもいい人だったら、「後でね」って追い返すこともできるけど、さすがにこっちが気恥ずかしいくらいの(立場の)人は結構嫌で面倒くさいわ。

 硯に髪の毛が入ってすられたの(はヤだ)。それから、墨の中に石が混入しててキシキシと軋んで鳴るのもね。

 急に病気になった人がいて、修験者をオーダーしようとしたけど、いつものところにはいなくて、他に尋ね歩くんだけど、それがすごくすごく待ち遠しくて。で、ようやく、待っていたのをお迎えして、喜びつつ加持してもらったら、最近こんな「もののけ」関係の仕事が多くて疲れてたのか、座ってすぐ眠たそうな声になるの。めっちゃ憎ったらしいわ。

 たいしたこともない人が、にやにや笑いながら、しゃべりまくってるの(も嫌だわ)。火桶の火、炭櫃なんかに、手のひらを返し返し、伸ばしたりしてあたっている人もねぇ。年寄りっぽい人が、火桶の端に足を持ち上げて、おしゃべりしながら、足をすり合わせたりするの(もヤな感じ)。そんな者は、人のところに来て、座ろうとする所をまず扇であっちこっちあおいで吹き散らして、塵を掃き捨てて、座っても落ち着かなくてふらふら動きまわって、狩衣の前を巻き入れて座るのよ。こういうことは、取るに足りない身分の者がやることだと思ってたんだけど、少し身分のいい者、式部の大夫なんていうのがしてたんだよね。

 また、お酒を飲んでわめいて、口をまさぐり、鬚のある者はそれを撫で、杯を人にとらせる様子は、めちゃくちゃ嫌だって思うわ。「もう1杯飲め」って言うのか、身体を揺すって、頭を振り、口の脇を下げて、子どもが「こふ殿に参りて~」なんて歌うようにするって、それはマジ、ホントに、身分のいい人がなさったのを見たものだけど、気に入らないね、って思ったワケよ。


----------訳者の戯言---------

「あなずりやすし」という形容詞。侮り易し、と書くんですね。「軽く扱ってもいい、侮っていい、どうでもいい」という意味ですね。良く言えば「遠慮がいらない」っていうことですか。
続いて出てくる「なでふことなし」も似たような言葉です。「たいしたことない、取るに足らない」という意味のようですね。

しかし清少納言、他人のことをdisってばかりです。有名人なんだから、こんなツイートしたら、今なら即炎上ですね。

火桶っていうのは火鉢みたいなもんだそうですが、木製だったらしい。炭櫃は囲炉裏とか火鉢とか炭を入れて暖を取るものの総称だそうです。

清少納言、火桶のあたり方にまで文句言ってます。それくらいは自由にさせてあげてほしいんですけどね、個人的にはね。
で、まあ、相当気に入らなかったんでしょうけど、年寄りっぽい、式部大夫への個人攻撃までしています。匿名なのでかろうじてセーフですけど、今みたいにネット社会なら、ネット民に特定されて晒されるケースです。

今回も身分差別意識は相当なもので、当然、当時は普通だったんですけど、今のポリコレ的にはアウト。私、古典を読んでるとしょっちゅうひっかかるんですが、スルーしないといけないんですよねぇ。

酔っ払いについてはめずらしく同意、というか、今も昔も誰が考えてもダメでしょう。特に酒の無理強いは嫌われます。お酒の飲み過ぎには注意ですね。


【原文】

 にくきもの 急ぐことあるをりに来て長言するまらうど。あなづりやすき人ならば、「のちに」とてもやりつべけれど、さすがに心恥づかしき人、いとにくくむつかし。

 硯に髪の入りてすられたる。また、墨の中に石のきしきしときしみ鳴りたる。

 にはかにわづらふ人のあるに、験者(げんざ)求むるに、例ある所にはなくて、ほかに尋ねありくほどいと待ち遠(どほ)に久しきに、からうじて待ちつけて、喜びながら加持せさするに、このごろ物の怪にあづかりて困じにけるにや、ゐるままにすなはちねぶり声なる、いとにくし。

 なでふことなき人の、笑(ゑ)がちにてものいたう言ひたる。火桶の火、炭櫃などに、手の裏うち返しうち返しおし伸べなどしてあぶりをる者。いつか若やかなる人など、さはしたりし。老いばみたる者こそ、火桶の端に足をさへもたげて、もの言ふままにおしすりなどはすらめ。さやうの者は、人のもとに来て、ゐむとする所を、まづ扇してこなたかなたあふぎ散らして塵(ちり)掃き捨て、ゐも定まらずひろめきて、狩衣の前まき入れてもゐるべし。かかることは、いふかひなき者のきはにやと思へど、少しよろしき者の式部の大夫(たいふ)など言ひしがせしなり。

 また、酒飲みてあめき、口をさぐり、鬚ある者はそれをなで、盃こと人に取らするほどのけしき、いみじうにくしと見ゆ。「また飲め」と言ふなるべし、身震ひをし、頭ふり、口わきをさへひきたれて、童べの、「こふ殿に参りて」などうたふやうにする、それはしも、まことによき人のし給ひしを見しかば、心づきなしと思ふなり。


検:にくきもの

 

枕草子―付現代語訳 (上巻) (角川ソフィア文庫 (SP32))

枕草子―付現代語訳 (上巻) (角川ソフィア文庫 (SP32))