枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

おひさきなく、まめやかに

 将来に希望なんて持たず、ただただまじめに(一途に夫を愛するなどして)、見せかけの幸せを感じてたいっていうような人は、鬱陶しくて、軽蔑してもいいって思うくらいですね。やっぱり、それなりの身分の人の娘なんかは、宮仕えをさせて、世間の有様も勉強させて欲しいし、内侍(ないし)のすけなんかに少しの間でもならせたら、と、ホントに思います。

 でも宮仕えする人を、いかにも浮ついててよくないって思ってる男の人は、マジむかつくわね。たしかに、それももっともな部分もあるかも知れないけど。口にするのもおこがましい帝をはじめとして、上達部(かんだちめ=三位以上の人)、殿上人(てんじょうびと=五位以上の人および六位の蔵人)、五位、四位などの人たちは言うまでもなく、女房の姿を見ない、なんて言う人はいないですからね。女房のお供の者、里から来る者、雑用担当の下級女官のリーダー、トイレ清掃担当、その他石ころや瓦かけ程度の卑しい者まで、そういう人たちの前でも、恥ずかしがって隠れたりすることがあったかしらね? 男の人はそれほどでもないかもだけど、でも、宮仕えするからにはそういうもの、つまり、人前に姿を現すのが当然なのじゃないのかな。

 宮仕えした人を「上」などと言ってかしづいて妻にめとる時、宮仕えしてたことをよろしくないことだって思うのももっともなところはあるけど、だけど、やっぱり内裏の典侍なんて呼ばれて、時折に内裏に参上し、葵祭の使いなんかに出るのって、晴れがましくないことがあるかな。(いやいやとっても名誉なことでしょ!) それでいて、家庭もしっかり守れるのは、まして素晴らしいことなのです! 受領が五節の舞姫を出す時なんかにも、田舎っぽいことを言ったり、知ってて当然のことを人に尋ねるとかっていうこともないでしょう? やっぱり宮仕えのキャリアがある女性って素晴らしいものなんですよね。


----------訳者の戯言---------

原文にあるのが「えせざひはひ」=似非幸ひ、という言葉なんですが、文字からもわかるとおり、ニセモノ、見せかけのシアワセ、のことだそうです。

五節というのは、ここでは新嘗祭大嘗祭豊明節会五節舞に出演する舞姫のこと。公卿の娘から二人、受領の娘から二人選ばれたらしいです。

さて本題。
今回は「女性のキャリア」についてですね。今の女性の社会進出、ダイバーシティといった考え方とはちょっと異なる部分はあるかと思います。むしろお勤めに出てた経験は活かせるよ、という割と単純な思考です。もちろんそれはそれで、わかりやすくていいんですけどね。
といっても、公務員です、当時のキャリアというのは。特に女性というのは内侍司に就職するというのが一般的だったみたいですね。あとは清少納言のように中宮の私設秘書的な仕え方をするのも一つだったかもしれません。

ま、所謂「キャリア」というのが、ちょっと浮わついてる感じに見られたというのは、現代も形を変えてありそうなことで、今なら職業、業種なんかによって偏見とかもあるんだろうなと思うし、似ているところはあるかもしれません。

ただ、宮仕えのキャリアがあったら、いろいろと名誉だったりとか、恥ずかしくない振る舞いができたりしていいよ、っていうのは、何だか表面的というかね、薄っぺらな発想ですね。

すぐれた随筆家なら、社会でいろいろな経験をすることによって、人間的に内面が成長するのだとか、深みが増すとか、そういうところに言及すべきであって、それができてないのは、所詮、清少納言であって、まだまだだと私は思います。清少納言にはもうちょっと頑張ってほしいですね。今後に期待です。


【原文】

 生ひ先なく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、いぶせくあなづらはしく思ひやられて。なほさりぬべからむ人のむすめなどは、さしまじらはせ、世のありさまも見せならはさまほしう、内侍のすけなどにてしばしもあらせばや、とこそおぼゆれ。

 宮仕へする人をば、あはあはしう悪るきことに言ひ、思ひたる男などこそ、いとにくけれ。げに、そもまたさることぞかし。かけまくもかしこき御前をはじめ奉りて、上達部、殿上人、五位、四位はさらにも言はず、見ぬ人は少なくこそあらめ。女房の従者、その里より来る者、長女、御厠人の従者、たびしかはらといふまで、いつかはそれを恥じ隠れたりし。殿ばらなどはいとさしもやあらざらむ、それもある限りはしか、さぞあらむ。

 うへなど言ひてかしづきすゑたらむに、心にくからずおぼえむ、ことわりなれど、また内裏の内侍のすけなど言ひて、折々内裏へ参り、祭の使などに出でたるも、面立たしからずやはある。さてこもりゐぬるは、まいてめでたし。受領の五節出だすをりなど、いとひなび、言ひ知らぬことなど人に問ひ聞きなどはせじかし。心にくきものなり。


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