枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

人の家につきづきしきもの

 (それなりの)人の家に似つかわしいものっていうと…。肘を折ったように曲がってる廊下。円座(わらふだ/わろうだ)。三尺の几帳。大柄な童女。品のいい召使いの女。
 侍の控室。折敷(おしき)。懸盤(かけばん)。中の盤。衝立障子。かき板。みごとに装飾がほどこされた餌袋(えぶくろ)。唐傘(からかさ)。棚厨子(たなずし)。


----------訳者の戯言---------

人の家? 家と言えばだいたいは人が住んでるんですが? 時々は、犬さんの家とか、猫さんの家とか、二十日ねずみの家とかあります。プーさんの家とか。ミッキーの家とか。ピーターラビットの家とか、ムーミンの家もありますけど。もういいですか。

清少納言が言う家は「人」の家です。よく読んでみると、(それなりの)人、っていうことみたいですね。いつものやつです。まー言うと、清少納言的な「人」というのは、(レッキとした)人!、(まさに!)人!、(ちゃんとした)人!ってことでしょう? ひとかどの人間というか、出世した人というか、です。

「平家にあらずんば人にあらず」と後に言ったのは平清盛ですが…というのは実は間違いらしいですね。実はこれ言ったのは清盛の義理の弟の平時忠でした。この人のお姉さんというのは平清盛の継室でした。継室っていうのは後妻さんなんですね。でも側室や妾ではなく正式な奥方ですし、たぶんご存じかと思いますが、平時子という人です。さらに、平時忠の妹っていうのが後白河上皇の妃、女御ではありますが、高倉天皇の母となった平滋子(建春門院)なんですね。

てことで、平時忠は当時イケイケだったのでしょう。
「此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし」と言ったと、「平家物語」に書かれています。

今の感覚では「人非人」は「人間じゃねー」です。「てめえら人間じゃねー、叩き斬ってやる!!」と言ったのは破れ傘刀舟ですが(古い!昭和!)、ポケモンのタケシも言いましたよ「お前ら人間じゃねー!」。鬼滅~でも人間じゃない人=鬼、いっぱい出てきますしね。アカザも、もちろん鬼舞辻も、たまよさんもですから。あ、ねづこもですね。

めちゃくちゃ逸れましたが、元に戻ります。
当時の「人非人」は、「宮中で出世できてない人」ぐらいの意味なんですよね、清少納言の言う通り。「平家一門でなかったら、出世はできひんよ!」ぐらいの感じのほうが近いかもしれませんね。東大卒じゃなかったら、財務省では出世できへんよ!!ぐらいの感じですか? なんかヤな感じですが、でもそんなものかもしれません。

というわけで、当時の「人」についてずいぶん行数をかけてしまいましたが、そういうことなんですね。


「肱折りたる廊」っていうのは、文字通り肘を負ったみたいに折れ曲がった廊下のこと。お屋敷の広さにふさわしい廊下ってことでしょう。たしかに私の家にはないですし、曲がった廊下のあるのって豪邸だけですもんね。洋館とかでも階段上ったところからぐるっと一周の回廊をよく見ますし。あの浅野内匠頭が切りつけちゃった松の廊下も折れてます。なんか、走り回ってましたもんね。ま、あれは江戸城ですけどね、家ではないですね、城ですね。

「円座(わらふだ/わろうだ)」というのは敷物の一種だそうで、藁(わら)、がま、すげ、まこもなどを渦巻き状に平らに編んで作ったもの、とのこと。おそらく今の座布団(夏用?)に近いものだと思います。

「几帳」というのは、移動式の布製の衝立(ついたて)です。当時の間仕切り、可動式のパーテーションですね。
細かなところまできっちりしている人を「几帳面な人」と言ったりしますが、この几帳から来てるそうです。元々、几帳の柱が細部まで丁寧に仕上げてある、ということからこう言ったそうですね。
一尺≒30.30303030303…cmなので、三尺は90cmぐらいです。三尺の几帳は、室内用の几帳で、高さ三尺×幅六尺だったらしいですね。

大柄な童女。と言うと、私がすぐにイメージしたのが、ゴルフの天才少女、須藤弥勒ちゃんです。まじ天才だと思います。努力もしている感じです。しかも弥勒ですよ、みろく。名前、菩薩様ですから。昔、「山口百恵は菩薩である」ということを書いた人がいましたが、こっちはまじで菩薩です。よくわからない方はググってください。すみません。

はしたもの(端物)。意味は、中途半端なもの、はんぱもの、です。「端女(はしため)」とも言います。召使いの女性のことなんですね。こういう言葉を何気に、何の疑問もなく使う感覚が私は嫌いなんですね。多くの人は、当時はそれがポピュラーだったんだから理解せよと言いますが、仮にも言葉を生業にしているのであれば、もっとセンシティブに物事を捉え、記述する必要があるでしょう。情感豊かで、雅びやかで、最高位のかな文学? 日本の三大随筆? 稀代の女流文学者? ハァ?って感じですね。聞いて呆れます。

折敷(おしき)というのは食器を載せる四角い縁付きのお盆に脚がついた食台とのこと。お盆そのもののことを言う場合もあります。

懸盤(かけばん)は、こちらは簡単に言うと、明らかに脚付きのお膳です。脚のところがアールのデザインになってて豪華です。

「中の盤」は調べましたが、よくわからなかったです。ミディアムサイズのお膳でしょうか?
「おはらき」もよくわかりませんでした。

かき板。裁縫に使う裁ち板のことだという説があります。引出の側面の板をこう呼ぶこともあるそうです。また、昔は、書いた字を拭き消して何度も使えるようにした黒板状のものを「書き板」とも言ったらしいです。ここではどれのことを言ってるのかはわかりません。

餌袋は、2コ前の段「おほきにてよきもの」でも出てきましたね。大きい方がいいらしいですが、エエトコの家にはさらに装飾がいかしてるのがあるのでしょう。

厨子(たなずし)。厨子(ずし)というのは、仏像・仏舎利・教典・位牌などを中に安置する仏具の一種だそうですが、それが棚の形をしているのでしょうか。もしくは棚のある厨子ですか。よくわかりませんが、そういうのがあったのでしょう。

堤子(ひさげ)は、注ぎ口とつる(持ち手?)のある銀や錫製の小鍋形の器。平たく言えば、口の広いヤカンみたいな感じです。昔のものは蓋が付いてないのが多いようですね。これにお酒とかを入れて温めたりもするようです。

銚子(ちょうし)というのも、お酒などを注ぐ容器です。柄杓(ひしゃく)みたいなものですが、注ぎ口があります。実は本来の銚子というのはこの長柄の銚子というものなのですが、先に書いた平たいヤカンみたいなのを今はお銚子と呼ぶことがい多いようです。神前結婚式で三々九度のお神酒を注ぐアレです。実体は堤子(ひさげ/堤)なんですけどね。

また他方、「お銚子1本!」みたいなのことも言います。実はあれは徳利(とっくり)のことをイメージしているんですね。徳利はご存じのとおり、瓶みたいな容器です。首みたいなところがあります、あれです。だいたい飲み屋さんとかで日本酒(熱燗)を頼むとこれに入れたのが出てきます。お酒を注ぐやつ、ということでごっちゃになったのでしょう。今では徳利のことをお銚子と言っても全然間違いではありません。伝わりゃいいんです、それで。言葉なんてもの共通認識ですからね。細かいことを言ってはいけません。


というわけで、それなりに出世した人の家、っていうかお屋敷に相応しい物、者です。
今で言うなら、プール、エレベーター、吹き抜け、天窓、イームズの椅子、アイランドキッチン、美人秘書、かわいいメイド、イケメン執事、屈強なボディガード、ジャクジーヴァシュロン・コンスタンタンカルティエパテック・フィリップハリーウィンストンバーキン、ケリー、ヘレンド、マイセン、ロイヤルコペンハーゲンetc.みたいなことを書いてるわけですね。
やらしいこと極まりないです。


【原文】

 人の家につきづきしきもの 肱折りたる廊。円座(わらふだ)。三尺の几帳。おほきやかなる童女(どうによ)。よきはしたもの。

 侍の曹司(ざうし)。折敷(をしき)。懸盤。中(ちゆう)の盤。おはらき。衝立障子。かき板。装束よくしたる餌袋。傘(からかさ)。棚厨子。提子(ひさげ)。銚子。

 

まんがで読む 枕草子 (学研まんが日本の古典)

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