若くよろしき男の
若くてまずまず身分の高い男子が、身分の低い女子の名前をなれなれしく呼ぶのはよくないわね。知ってても、何さんだっけかなぁ、って、一部はうろ覚えな感じで言うのはいいんだけど。
宮仕えしてる女子の局(部屋)に立ち寄るとき、夜なんか、そんなんじゃよくないんだろうけれどね。主殿司で呼んでもらってもいいし、主殿司がないような普通の場所なんかだったら、侍所とかにいる従者を連れてって呼ばせるのがいいわ。自分で呼んだら声がわかっちゃうからね。普通ぐらいの身分の女子や少女なんかは、自分で呼んでもいいんだけどね。
----------訳者の戯言---------
「よき」ではなく「よろしき」なんですね。
「よき」はかなり広く「良い」の意味があって、まあ、身分が高い、立派な、というくらいが一般的なんでしょうけど、「よろしき」は「まずまず、悪くない」くらいのイメージのようです。
侍=侍所です。貴人の身辺警護する従者の詰所でした。
主殿司(とのもづかさ/とのもりづかさ)は前にも出てきたように、宮中の雑務担当セクション(もしくはそのマネジャー的女性)のことです。
何やら、艶めかしい感じもある段ですが、身分の低い女子に声をかける、あるいは呼び出すといった場合の話ですね。またもや身分の高い人と身分の低い人等々のヒエラルキーの問題もはらんでいます。
という小難しい話はさておき、身分の高い男が身分の低い女子のことを、なれなれしく呼んじゃダメとか、あんまり知らんふりしろとか、夜なんかに直で呼び出したら声でばれちゃうといかんから、誰か代わりの者に呼ばせるようにしとけとか、けど、中ぐらいの身分のコとかお子ちゃまなんかだったら、自分で言っていいけど、という話です。
彼女的にというか、貴族階級的に、身分の低い女子とそういう関係になるってどーよ、という視点がまずあるような気がします。というか、別にいいんだけれど、体裁ってもんがあるでしょ、っていうね。
当時の常識ではあるのでしょうが、表向きにはそれなりの身分の者同士で言葉を交わさないといけない感じはあったんでしょう。
「はした者」というのは中ぐらいの身分の使用人のようですが、「下衆女」よりは身分的には上だったんでしょうかね? だから、直接呼んでも良かったんですかね。
「童べ」というのは子どもの召使いだと思いますが、これ肯定していいんでしょうか? 何歳ぐらいかよくわかりませんが、所謂、炉利紺でしょう。少女だったら疑われないからいいってことなのか。今のコンプライアンス感覚で言いますがそういうやつこそゲスだ。
と、いろんな意味で複雑な気持ちがしますね、一般現代人としては。
「されどよし」ですか、そうですか。
【原文】
若くよろしき男の、下衆女の名よび馴れて言ひたるこそにくけれ。知りながらも、何とかや、片文字はおぼえでいふはをかし。
宮仕所の局によりて、夜などぞあしかるべけれど、主殿司、さらぬただ所などは、侍(さぶらひ)などにある者を具して来ても呼ばせよかし。手づから声もしるきに。はした者、童(わらは)べなどは、されどよし。