主殿司こそ
主殿司ほど、いかしてる職業ってあるかしら? いや、ないと思うわ。下級の女子スタッフの立場なんかからすると、こんなにうらやましい存在はないわね。身分の高い人にも、ぜひやってほしいお仕事。若くて、きれいな人が、着こなしも決まってたりすると、もっと、さらにカッコいいでしょうね。少し齢を重ねたら、仕事の中身も熟知して、厚かましいくらいなのも、すごくぴったりはまってて、それもいい感じなの。
主殿司の中で顔のかわいい子を一人選んで、着るものは季節に合わせてコーディネート、裳や唐衣なんかは、最新のトレンド感のあるものにして、歩かせたいもんだわ、って思うのよね。
----------訳者の戯言---------
殿司(とのもづかさ・とのもりづかさ)は、元々は後宮十二司の1つで、後宮の清掃、輿などの乗り物、灯油・火燭・炭薪などの内部の照明などを担当した部署でした。平安時代中期以後に後宮の再編と十二司の解体に伴って、「主殿寮」に吸収されて同署より内侍司に対して派遣される形となったそうです。こうした女官が主殿司(とのもづかさ/とのもりづかさ)あるいは主殿女官と呼ばれたそうです。当然、実際に作業をする女孺などと呼ばれるスタッフがいましたから、そのマネジメントをするのが「主殿司」であったということになります。
裳(も)というのは、表着の上で腰に巻くものだそうです。後ろに裾を長く引くらしい。
唐衣(からぎぬ)は十二単の一番上に着る丈の短い上着、とのこと。
この段も一種の女性キャリア論だと思うんですが、途中まで「キャリアを積んだらどうなるか」みたいなことを少しは書いてたにもかかわらず、結局最後のところでまた「見かけ」「スタイル」「オシャレ」重視のかっこよさ的な薄っぺらい結論に落ち着くという展開。そりゃ、キャリア女性にとって、ファッションセンス、着こなしも重要な要素の一つであることは認めますよ。しかしこれ、今のファッション誌とあんまり変わりないって。
むしろファッション誌はファッション誌としての役目もポリシーもあるからいいのだけど、枕草子は趣旨か違いますからね、そもそも。
とまあ、またまたdisりながらの読書です。私も他人のことを言えた義理ではありませんね。
【原文】
主殿司(とのもりづかさ)こそ、なほをかしきものはあれ。下女(しもをんな)の際(きは)は、さばかりうらやましきものはなし。よき人にもせさせまほしきわざなめり。若く、形よからむが、なりなどよくてあらむは、ましてよからむかし。少し老いて、物の例知り、面(おも)なきさまなるも、いとつきづきしくめやすし。
主殿司の顔愛敬づきたらむ、一人持たりて、装束時にしたがひ、裳、唐衣など、今めかしくてありかせばや、とこそおぼゆれ。