枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

うへに候ふ御猫は② ~御膳のをりは~

 「お食事の時には必ず来てたのにね、寂しいよね」なんて言って、3、4日経った昼頃、犬がすごく吠える声がしたから、どの犬がこれだけ長く吠え続けるんだろうと思ってたら、めちゃいっぱいの犬が見に走っていくんだよね。

 トイレ清掃担当者が走ってきて、「ああ、大変です。犬を蔵人が二人で叩いてらっしゃる。死んじゃう! 犬を流刑にしたんだけど、帰ってきたからって懲らしめてるんです」って言うの。心配だわ、翁丸でしょうね。
 「忠隆や実房なんかが叩いてる」って言うから、止めに行ってもらったら、ようやく鳴きやんで。止めに遣った者が戻ってきたら「死んでしまったので敷地の外に捨ててしまいました」って言うもんだから、かわいそうにって思ってた、その夕方、ひどく腫れあがって、あきれるくらいひどい風貌のみすぼらしい犬が、震えながら歩いてるので、「翁丸かな? 最近こういう犬、歩いてたかな?」って言って、「翁丸!」って呼んだんだけど、反応がないの。
 「翁丸でしょ」って言ったり、「翁丸じゃない」とも、口々に言ってたら、「右近(内侍)だったらわかるでしょう。呼んできて!」と定子様がおっしゃったので、呼び寄せたら、やって来たのね。で、「これは翁丸かい」とお見せになったの。「似てはいますけれど、これはあまりにも酷うございます。また、『翁丸かい?』と呼んだら、喜んで寄って来るはずなんですが、呼んでも寄って来ませんしね。違うでしょう。翁丸は『叩き殺して捨ててしまいました』とも報告を受けています。二人がかりで叩いたんなら、生きてはいないでしょう…」などと申したので、定子様は傷心なさってしまわれたのです。


----------訳者の戯言---------

動物虐待です。かなり酷いですね。こんなことが宮中で行われちゃいけません。
時代はだいぶ後ですけど、徳川綱吉激怒ですね。
関係はありませんが、実は生類憐みの令は天下の悪法のように言われていますけど、あれはかなり誤解があるようです。それほど、人間にキツい法ではなかったようですね。

今なら、もちろん動物愛護法です。この段のようなことがあると通報、逮捕になるかもしれません。

いずれにしても動物虐待は今も昔もちゃんと裁いてほしいです。


【原文】

「御膳のをりは、必ず向かひ候ふに、さうざうしうこそあれ」など言ひて三四日になりぬる昼つ方、犬いみじう鳴く声のすれば、なぞの犬のかく久しう鳴くにかあらむと聞くに、よろづの犬とぶらひ、見に行く。

御厠人なる者走り来て、「あな、いみじ。犬を蔵人二人して打ち給ふ。死ぬべし。犬を流させ給ひけるが、帰り参りたるとて調じ給ふ」と言ふ。心憂のことや、翁丸なり。「忠隆、実房なんど打つ」と言へば、制しにやるほどに、からうじて鳴きやみ、「死にければ陣の外にひき捨てつ」と言ヘば、あはれがりなどする夕つ方、いみじげに腫れ、あさましげなる犬のわびしげなるが、わななきありけば、「翁丸か。このごろかかる犬やはありく」と言ふに、「翁丸」と言ヘど、聞きも入れず。「それ」とも言ひ、「あらず」とも口々申せば、「右近ぞ見知りたる。呼べ」とて召せば、参りたり。「これは翁丸か」と見せさせ給ふ。「似ては侍れど、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。また、『翁丸か』とだに言へば、喜びてまうで来るものを、呼べど寄り来ず。あらぬなめり。それは『打ち殺して捨て侍りぬ』とこそ申しつれ。二人して打たむには、侍りなむや」など申せば、心憂がらせ給ふ。


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