枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

坤元録の御屏風こそ

 坤元録(こんげんろく)の御屏風はいかしてるって思うわ。漢書の屏風は雄々しい感じだって評判なのよ。月次(つきなみ)の御屏風もいい感じなの。 


----------訳者の戯言---------

「坤元録(こんげんろく)」というのは、中国・唐代に編纂された地誌(地理書)ですが、日本にも伝えられこれに基づいた漢詩、つまり屏風詩が詠作され、それが書かれた屏風があったということなんですね。その詩歌が良かったのか、書が良かったというのでしょう。

「坤元」というのは「大地の徳」のことらしいです。
そもそもこの言葉は中国の「易経」という古代中国の書物に書いてあるものでした。「易経」というのは占いの理論と方法を説いてるとか、自然と人生の変化の道理を説いたものだとか、簡単に言うと哲学とか宇宙観、倫理観なんかが盛り込まれた書物なんだそうですね。思想書でもあり、指南書でもあるというか。そういう結構有名なものです。

至哉坤元 萬物資生 乃順承天
至れるかな坤元、萬物資(と)りて生ず、乃(すなわ)ち順(したが)ひて天を承(う)く。
(大地の徳はなんて素晴らしいもの! 天の徳を承って結びついて、全てのものはそれを源として生まれてくるのです。)
というようなことが「易経」に書かれていました。

余談ですが、この真ん中あたりの「萬物資生」の「資生」があの化粧品メーカーの資生堂の社名の元になったんだそうですね。資生堂ってもともとは薬局だったんですよね。まさにこのフレーズを社是?として創業したそうなのです。店は今も本社のある銀座だったそうですね。関係ありませんが。


漢書」というのは中国・前漢の歴史書だそうです。「漢書の屏風」はこれより題材を得て描かれた絵の屏風だと考えられているそうです。


月次(つきなみ)の御屏風というのは、「月次絵(つきなみえ)」の描かれた屏風です。
「月次絵」というのは、1年12か月の年中行事や風俗を自然の景趣を背景にそれぞれ順に描いた絵。中国風の唐絵(からえ)に対してこちらは日本独自のもの(大和絵)の主要なジャンルの一つとされていて、障子絵や屏風絵によくされたそうです。


というわけで、この段はいかしてる屏風のことを言ってます。屏風にもいろいろあったのでしょうね。屏風というのは、「風を屏(ふせ)ぐ」という言葉に由来するらしいです。「屏」という字には、しりぞける、おおう、というような意味もあるようで。歴史は古いようですが、平安時代の屏風はあまり確認されていないらしいです。ですから、ここに書かれたものもビジュアルとしてどんなものかはよくわかりませんでした。できれば見て、それほどでもねーな、ぐらいのことは言ってみたかったです。残念。


【原文】

 坤元録(こんげんろく)の御屏風こそをかしうおぼゆれ。漢書の屏風は雄々しくぞ聞こえたる。月次(つきなみ)の御屏風もをかし。