枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

神のいたう鳴るをりに

 雷がものすごく鳴る時、雷鳴の陣はめちゃくちゃ物々しくて恐ろしい雰囲気なのよ。左右近衛府の大将、中将や少将なんかが清涼殿の御格子の下に参じていらっしゃるの、すごく気の毒だわ。で、雷が鳴り終わったら、大将がお命じになって「下りろ」っておっしゃるの。


----------訳者の戯言---------

「神」が「鳴る」から(鳴らすから?)カミナリなんですね。神鳴り。
雷神(雷様)は、現代では空想上のものとされていますが、昔は本当に神が鳴らすと信じられていました。雷は神の怒りだとか本気で思っていたようです。
せめておそろしきもの」(もんのすごく恐ろしいもの!!)という段でも書いてます。清少納言的には夜に鳴る雷が怖いよ~ということでした。


雷(いかずち)という言い方もありますね。
いかずちの「いか」は「たけだけしい」「荒々しい」「立派」などを意味する形容詞「厳し(いかし)」の語幹で、「ず(づ)」は助詞の「つ」からの変化です。「ち」は「みずち(水霊)」や「おろち(大蛇)」の「ち」など、霊的な力を持つもの、あるいは鬼や蛇、恐ろしい神などを表す言葉であったようですね。つまり「厳(いか)つ霊(ち)」です。
自然現象の中でも特に恐ろしく、神と関わりが深い、畏怖の対象と考えられていたことから、「いかづち」と言ったわけですね。
古代はこの「いかづち」もしくは「なるかみ(鳴る神)」という語が主流でした。

そして、「雷鳴(かみなり/かんなり/らいめい)の陣」です。
大きな雷が3回鳴ると、かの時代は近衛の大将とか中・少将が弓矢を持って清涼殿に陣を作ったらしい。そして、その他の殿舎にも他の役所の役人が陣を整えたりしました。
この「雷鳴の陣」というものが立てられるようになったのは、醍醐天皇(在位897~930年)の時のことらしいです。紫宸殿に落雷があったらしく、相当怖かったのでしょう。
ちなみに「ことばなめげなるもの」という段でも「雷鳴の陣」が出てきましたね。

さて。先にも書いたとおり、古代は「いかづち」という語が主に使われていましたが、「かみなり」のほうは中世以降に広く使われるようになった言葉だと言われています。この平安時代の頃は過渡期だったのかもしれません。


「いとほし」というのは、一般には現代語で言う「かわいい」とされている語ですが、元々は「気の毒」「かわいそう」という意味合いがあるようで、この時代は「気の毒な」と訳すケースも多いです。
そもそも弱い者、弱ってる者を見て辛い感情とか、困った、という気持ちです。現代の「愛おしい」というのは、この同情?が愛情に変わった感じだと思います。


というわけで。
今でこそ雷鳴ったくらいで陣を立てて帝を警護、ってどんだけ雷怖がってるねん、とは思いますが、当時はみんな雷にビビりまくってたようですね。清少納言もそうですが、帝も怖いんですね。誰も科学的根拠を知らないですから。
そして駆り出される近衛府の幹部たちが気の毒。って話です。一般の夜警スタッフだけでなく、やはりトップからして参上せねばなりませんから、今なら国家公安委員長警察庁長官とか警視総監とかが来ないといけない感じでしょうか。


そういえば上賀茂神社の正式名称が「賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)」だということを以前書きました。ご祭神は「賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)」とか「賀茂別雷命(かもわけいかづちのみこと)」と言います。
賀茂別雷命」は今から2600年以上前、日本ではまさに神代の昔でしたが、神社の背後にある神山(こうやま)にはじめて降臨されたそうですね。
「雷」というワードが入ってるので雷神と思われそうですが実は違います。むしろ雷を別ける、つまり「雷除け」で信仰を集めたのがこの神様でした。先にも書きましたが、昔の人々にとって天災の代表的なものの一つだった落雷を除ける存在です。雷をもコントロールする強大な力を持つ、とされてたわけなんですね。
上賀茂神社は近年では雷から転じて「電気を司る神様」として、電力や鉄道、機械、電機、電子、果てはIT関連など幅広い企業からの参拝もあるのだそうです。

余談でした。


【原文】

 神のいたう鳴るをりに、雷鳴(かみなり)の陣こそいみじうおそろしけれ。左右(さう)の大将、中・少将などの御格子のもとに候ひ給ふ、いといとほし。鳴りはてぬるをり、大将仰せて、「おり」とのたまふ。