枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

今朝はさしも見えざりつる空の

 今朝はそんなふうに見えなかった空が真っ暗にかき曇って、雪が辺りを暗くして降るもんだから、すごく心細く外を見てるうちに白く雪が積もって、さらにどんどん激しく降るんだけど、随身らしいほっそりした男が傘をさして横の方にある塀の戸から入って、手紙を差し入れた、なんていうのはいかしてるわね。
 とても白い陸奥紙か白い色紙を結んでる上に引きわたした封じ目の墨が書いてすぐ凍ったみたいで、下の方が薄くなってるのを開けたら、すごく細く巻いて結んでるその巻き目は、細かく窪んでるのに墨の色はとても黒かったり、また薄かったり、行間も狭く裏にも表にも書き散らかしてあるのを何度も繰り返しながら時間をかけて読んでるのを、どういうことなんだろうかな?って傍から眺めてるのも面白いもんだわ。ましてや読みながら思わず笑っちゃったところはその内容をすごく知りたいけど、遠くに座っている者にとっては黒い文字とかのあたりがそれなんだろうな?って思われるだけなの。
 額髪が長くて顔のキレイな人が暗い時間帯に手紙を受け取って、灯火をともすのも待ち遠しいのかしら?? 火桶の火を挟みあげてたどたどしげに手紙を見てるのはいい感じだわね。 


----------訳者の戯言---------

随身(ずいじん)というのは、貴族の外出時に警護のために随従した近衛府の武官です。いまで言うとSPみたいなのですね。民間ならキムタクのやってたBGです。ボディガード。古いけどケビン・コスナーとかのやつです。 

陸奥国紙(みちのくにがみ/陸奥紙/みちのくがみ)。檀紙というもののようです。当時から高級だったらしいですが、今も高級和紙として一般的なもののようですね。


他人の情事?というほどではないにしても、手紙を受け取って読んでいる様子を盗み見するという清少納言
もちろん、情緒ある雪の日、文を交わす男女の心の機微を「いとをかし」な情景を瑞々しく描くことによって表現…とかいう読み方もできそうではありますが、私はこの人どんだけ他所の男女のやり取りに興味あんねん。とシンプルに思いましたよ。それが清少納言清少納言たる所以であるのだけど。


【原文】

 今朝はさしも見えざりつる空の、いと暗うかき曇りて、雪のかきくらし降るに、いと心細く見出だすほどもなく、白う積もりて、なほいみじう降るに、随身めきて細やかなる男(をのこ)の、笠さして、そばの方なる塀の戸より入りて、文をさし入れたるこそをかしけれ。いと白き陸奥国紙・白き色紙の結びたる、上に引きわたしける墨のふと凍りにければ、裾薄(すそうす)になりたるを、あけたれば、いと細く巻きて結びたる、巻目はこまごまとくぼみたるに、墨のいと黒う、薄く、行(くだ)り狭(せ)ばに、裏(うらうへ)表書き乱りたるを、うち返し久しう見るこそ、何事ならむと、よそに見やりたるもをかしけれ。まいて、うちほほゑむ所はいとゆかしけれど、遠うゐたるは、黒き文字などばかりぞ、さなめりとおぼゆるかし。

 額髪長やかに、面様(おもやう)よき人の、暗きほどに文を得て、火ともすほども心もとなきにや、火桶の火を挟(はさ)みあげて、たどたどしげに見ゐたるこそをかしけれ。