たふときこと
尊いこと。
九条の錫杖(しゃくじょう)。念仏の回向(えこう)。
----------訳者の戯言---------
九条の錫杖(しゃくじょう)。聞いたことがありません。九条というと京都の九条、あとは大阪の九条とか。地名ぐらいしかわからないですね。地名ならほかにもあるかもしれません。
錫杖というのは、お坊さんとかが行脚の時に持って歩く杖ですね。上部の枠に何個か輪っかが掛けてあって、振ると鳴るやつです。時代劇とかでは山伏がよく持ってます。ほら貝とこの錫杖は山伏の必須アイテムでもあります。ドラクエの勇者における盾と剣みたいなものですね。
錫杖は行脚のとき振って音を出して、獣とかヘビとか虫とかを避けるためのものであり、托鉢の時には門前で来たことを知らせる役目もあったみたいです。玄関チャイムは昔はないですしね。あってもわざわざ呼び出すのは気が引けます。つまり、何気に来訪を気付かせるというなかなか頭脳的なシステムでもあるのです。そして、煩悩を除去し智慧を得る効果があるともされていました。
というわけで、「九条の錫杖」に戻りますが、この錫杖を振って唱える「偈(げ)」で九節からなるものを「九条錫杖経」などと言いました。え?何それ?そして「偈(げ)」って?
偈というのは、経典の中で詩句の形式で教理や仏・菩薩をほめたたえた言葉です。声明(しょうみょう)とも言えるでしょうかね。4字か5字か7字で1句として、4句から成るものが多いらしく、平等施会条、信発願条、六道智識条、三諦修習条、六道化生条、六捨悪持善条、邪類遠離条、三道消滅条、回向発願条の九つなので「九条」なんですね。内容はさっぱりわかりませんが。
何せ一条唱えるごとに錫杖を振るそうです。こういう唱和の時に振るのは、それ用の短いサイズの錫杖らしいですね。で、そのようにして密教系や修験道などで唱えられるのだとか。最初の三条だけを唱えるものを三条錫杖と言うらしいです。
なんかわけが解らなさ過ぎるんですが、清少納言的にはこれ、尊いことらしいです。「こと」と書いてますから、それをやってる行為が尊く感じられたのでしょう。
そういうわけで、私もYouTubeでいくつか九条錫杖経を見てみました。リズムもメロディ?も違うんですね。同じ宗派でも。所謂お経みたいなのもありますし、まさに謡ってるようなのもあります。で、錫杖の使い方も違います。上に書いたように一条ごとに鳴らしてるのもあるし、リズム楽器的に使ってるようなのもあります。概ねシャカシャカシャカシャカ~とトレモロで鳴らすのが多いように思いました。
日常の勤行や法要の終りに、僧侶や自分が修得した善行とか功徳を他のものに回し向けることを言います。それを願って唱える声明を回向、回向文と言うそうですね。
宗派によって異なるようですが、密教系の宗派では下記です。文字で書くとこうなります。
唱えるとするとこうなります。↓
願わくは此の功徳を以て
普(あまね)く一切に及ぼし
我等と衆生と
皆共に仏道を成(じょう)ぜん
意味は、
私の願いっていうのは、私の行った善い行いの結果生まれる恵みとか幸福が、ありとあらゆるもの全部に行きわたって、
私とかその他全ての人々と生きものが全員で一緒にお互い深い慈しみの心を持って勤め励む仏道を毎日進んで行けますように。ってことなのだ~。
という感じでしょうか。これを唱えてるのも、尊いわ。と清少納言は思ったのでしょう。
さて昨今はネットスラングの側面から「尊い」という言葉が見直されたりしてましたね。神、ネ申、押し、~しか勝たん、などと同系列の言葉になるかもしれません。
ネット界隈や若者言葉的に使われる「尊い」が、ここで清少納言が書いたとおり、崇高で近寄りがたい、神聖である、非常に貴重である、という意味から派生したのはもちろんですが、昨今日常的にかなり使われるようになりました。すごく素晴らしい、完璧、最高すぎる的なものに「尊い」と言いますし、「わかってる感」があった時なんかにも使います。「好き」の最上級的にも使われますね。所謂「押し」のことが好き過ぎて「尊い」となったりします。
最近では、アニメやコミックなどの2次元から、アイドルや俳優などの3次元キャラクターに対しても使われることが多いです。すとぷりなんかにも使われがちですね。
変化系では「尊み」があります。「わかりみが深い」の「わかりみ」と同じような語形変化です。
今、清少納言がいたら、
尊み~。すとぷりのライブ~。なにわ男子の新曲~。
ぐらいのこと書いてたかもしれません。いやそんなことはないだろう。
【原文】
たふときこと 九条の錫杖(さくぢやう)。念仏の回向(ゑかう)。