枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

経は

 経は。
 法華経は言うまでもないわ。普賢(ふげん)十願。千手経。随求(ずいぐ)経。金剛般若経。薬師経。仁王経の下巻。


----------訳者の戯言---------

法華経はさらなり。と清少納言も書いてるとおり、説明するまでもありません。超メジャーな経典ですね。


普賢十願というのは、普賢菩薩の十種行願=十大願のことを言うのだそうです。さっぱりわかりません。それ、何のこと? そもそも普賢菩薩って?という罰当たりな私ですが、菩薩様のお一人です。お釈迦様は有名なのでみなさんご存じかと思います。そのお釈迦様が仏になったのが釈迦如来なのですが、普賢菩薩は、文殊菩薩とともにその両脇に控える脇侍(きょうじ)として祀られることが多い菩薩ということでした。

華厳経というのがあり、さらにその中に「普賢行願品」 というところがあります。そこで説かれる普賢菩薩の十種の行願のことなんですね。もう少し簡単に言うと、普賢菩薩衆生教化のために立てた10コの誓いのことです。「行願」っていうのは精進する(行う)、つまりガンバる、誓い(願)ってことなんですね。

華厳経に依拠して華厳宗という宗派が生まれたらしいですが、その華厳宗のわが国の大本山があの東大寺だそうです。奈良の大仏のあるあの東大寺ですと。なるほど。


千手経は、千手観音に関する経典で千手陀羅尼経といい、さらに略して千手経と言うらしいですね。千手観音の由来・発願・功徳などを説いた経文で、唱えれば千手観音の救いを得られるものとして尊ばれたそうです。


随求教(ずいぐきょう)は「普遍光明焔鬘清浄熾盛如意宝印心無能勝大明王随求陀羅尼経(ふへんこうみょうえんまんしょうじょうしじょうにょいほういんしんむのうしょうだいみょうおうずいぐだらにきょう)」のことです。
長っ! 九文字目ぐらいでツッコミ入れますよ、私。ていうか覚えれません。
というわけで、昔の人もそうだったんでしょうね、略して「随求陀羅尼経」です。もっと略して「随求教」もしくは最短で「随求」でも通用するようになりました。


金剛般若経(こんごうはんにゃきょう)は、正式名称「金剛般若波羅蜜経」と言うのだそうです。般若経の一種で、比較的短編の経典だそうですね。

般若経の一種、と書きましたが、般若経はたくさんあるらしいです。で、その複数ある般若経の集大成と言われるのが「大般若波羅蜜多経」です。
大般若波羅蜜多経」をまとめたのは、玄奘という中国の僧。「西遊記」のモデルにもなった三蔵法師です。で、ご存じのとおり、般若経の中でも「般若心経(般若波羅蜜多心経)」という、同じく玄奘が訳したお経が、最もポピュラーな般若経。お経全体の中でも超有名なあれです。法事とかお葬式とかでもたいていこれを耳にしますね。

「般若」というのは、そもそも「万物の真実相を直観的に把握する智慧」のことを言います。わかりにくいですが、「全ての事物や道理を明らかに見抜く深い智慧」と言い換えてもいいでしょうか。大乗仏教においては、それは「空(くう)」の理解であるとしています。「空」は仏教全般に通じる基本的な教理である、というわけです。

もっとわかりやすく言うと「からっぽ」ということですね。もう少し良い風に言えば、「何ものにも煩わされず、惑わされず、開放された自由な空間の広がりがあること、その心」ぐらいの感じでしょうか。まあ、もっとちゃんと深い意味があるんでしょうけどね。私はこれぐらいでいっぱいいっぱいです。

でー。
「般若」っていうと、あの鬼のような顔のお面を想像してしまいます。一応私も仏教徒の端くれのはずなんですけどねー。私だけですか?すみません。 
私、「般若」についての誤ったイメージが植え付けられてましたよ。
実はあのお面の般若は、室町時代の奈良の般若寺というお寺にいた僧で面打ち(能面師)の「般若坊」という人が創作したと伝えられているから、という説が主流なんですね。嫉妬や怒りなどをたたえた鬼女の面ってことなんですが、つまり本来の「般若」の意味を由来とはしていませんとのこと。

もちろん、こんな私ですが、般若心経も知ってますし、般若のお面も知ってます。お酒のことを「般若湯」とか言うって話も聞いたことありますよ。般若って言うと何となく仏教のアレかなーぐらいの認識でしかなかったんですが、こうやって調べてみると勉強になりますね。
あまり好きではないんですが、お笑い芸人のはんにゃとか、ラッパーの般若とかいろいろいて、もうわけがわかりません、最近は。もちろん名前なんで自由に付けていいんですけどね。それこそ「空」ですから。細かいことにこだわっちゃだめです。


薬師如来は、日本への仏教伝来の初期から礼拝されている仏尊です。名前からもわかるとおり、メディカルな力を持つ如来ですから、病を治す功徳の力は薬師如来が随一と言われています。そういう仏様なんですね。
で、そんな薬師如来の功徳を説いた経典が薬師経です。なるほど、ありがたい。これ唱えてコロナ退散とかもお願いしたいです。


仁王経(にんのうぎょう)は、「仁王般若波羅蜜経」の略称です。これも般若教の一種でしょうね。仏教における国王のあり方について述べた経典で、般若波羅蜜の法を誦持することによって、国家を守護し繁栄させることができる、と説かれています。古くから護国のための経典として尊重され、この経で鎮護国家を祈願するものでした。「法華経」「金光明経」と合わせて護国三部経の一つに数えられるそうです。
清少納言は特に「下巻」がいいと書いてますが、下巻の内容の詳細がどういうものなのかはよくわかりませんでした。


さて。
お経と言っても、たくさんの経典があります。結局、何がどうういう意味を持つものかとかは、私、よくわかりません。ただ、たしかに仏様の教えは同じなんですが、切り口というか、その教えの伝え方が違うんですね。
今や日本国内にあるお経だけでも8万種類、と言われているほどだそうで。ま、私などわからなくて当然でしょう。

清少納言は、これまで枕草子を読んできた限りでは信仰心が薄いように思っていましたが、いやいや、なかなかお経に詳しいじゃないですか。ちょっと見直しましたよ。


【原文】

 経は 法華経さらなり。普賢(ふげん)十願。千手経。随求(ずいぐ)経。金剛般若。薬師経。仁王経の下巻。

 

新編日本古典文学全集 (18) 枕草子

新編日本古典文学全集 (18) 枕草子

  • 発売日: 1997/10/24
  • メディア: 単行本