枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に⑪ ~出でさせ給ひし夜~

 定子さまがお出になられた夜、女房が車に乗る順番も決まってなくて、みんな「私が先、私が先」って乗る時に騒いでるのが気分悪かったもんだから、ちゃんとしてる人と「やっぱり、この車に乗る様子がすごく騒がしいし、『祭のかへさ』の時なんかみたいに、倒れちゃうんじゃないかな?って思うくらい混乱しちゃってるのがすごく見苦しくって。もうそれなら、成り行きにまかせよっか? 乗れる車が無くて私たちが参上できないなら、自ずと定子さまがそのことをお聞きになって、車を寄越してくださるでしょうし…」なんて話し合って立ってる前で、女房たちが固まりになって、慌てて出てって乗り終えたから、「これで終わりです?」って中宮職の職員が言うのね。で、「まだ、ここに!」って言うと、職員が寄って来て、「誰誰がいらっしゃるんですか??」って聞いてきて、「すごく妙なことですねぇ。もう今はみんな乗ってしまったんだろうと思ってましたよ。これは何でこんなに遅れてしまわれたんでしょ? 今、得選(とくせん)を乗せようとしてたのに…。あきれちゃいますよ」なんて驚いて車を寄せさせるもんだから、「それなら、まずその思ってた人をどうぞお乗せになって。次には私たちを…」って言ったのを聞いて、「とんでもなく意地悪でいらっしゃる」とか言うから、乗ったの。で、その次には、ホント御厨子所の女子スタッフの車だったから、灯りも暗くって、それを笑いながら二条の宮に参上すべく着いたのね。


----------訳者の戯言---------

この段がはじまった時に中宮・定子は二条の宮に行ったのかと思いきや、ここではその当日の夜のできごとになってるようですが?
時間が戻ってます? タイムリープのようですね。私の読み方が間違っていたのでしょうか? 長い長い段のまだ途中なので全体がつかめておらず、すみません。とりあえず訳してみます。


さて、ちょくちょく出てくる「祭のかへさ」です。「かへさ」というのは帰り道ということで、葵祭の翌日、斎王(いつきのみこ)が上賀茂神社から紫野(今の京都市北区/上京区)の斎院に帰ること、またはその行列のことを言ったんですね。紫野は現在は北区の地名ですが、斎院跡は現在の櫟谷七野神社(いちいだにななのじんじゃ)にあり、ここは今の上京区です。
この「祭のかへさ」の行列は人気のイベントだったらしく、清少納言もイチオシです。ただ、見物の場所取りとかでめちゃくちゃ混雑したらしい。それで、この段でも混雑する時の例えとして書かれています。

当時は都で祭っていうと、今、葵祭と言われている賀茂神社のお祭り(賀茂祭)のことなんですね、当然のこととして。勅祭ですから、皇族貴族のものでもあり、清少納言とかその辺の人たちからするとやはり葵祭だったんですよ、祭りは。現代では京都を代表する祭りといえば祇園祭なんですが、祇園祭のほうがだいぶ後のもので、どっちかっていうとこっちは町人のお祭りらしいですからね。

宮司」というと私たちの感覚でいくと、神社の職員さんというか、祭祀や祈禱に従事している神職の人、だと思いますが、ここでは「中宮職(ちゅうぐうしき/なかのみやのつかさ)」という役所の職員のことです。「中宮職」というのはこれまでにも何度か出てきましたが、皇后に関する事務全般をやっていた中務省に属する役所なんですね。

「得選(とくせん)」は、「御厨子所(みずしどころ)」の女官です。定員は三人だったとか。食膳や雑事に従事したそうです。采女(うねめ)のなかから選ばれるところから、このように言われたらしいですね。御厨子所というのは、宮内省の内膳司に属してる部署(役所)で、天皇の御膳を調進し、節会などで酒肴を出す機関らしいです。


さて。
中宮随行して二条の宮に参上しようと女房たちが騒いでる感じでしょうか。我先にと車に乗ろうとしているのは浅ましい感じがして、たしかに嫌なものではあります。
でも、自分が中宮さまから呼ばれないワケはないだろうとタカを括って後ろから見ているのが、いつもの上から目線で語る清少納言。そりゃそうかもしれないけどね、謙虚さは微塵もありません。

焦ってる女房たちを蔑みながら、ぐずぐずしているもんだから、例によって清少納言、案の定配車担当のスタッフを見下しながら軽くもめてしまいます。「ほならおたくはん思たとおり先に乗せよし。うちらその後でよろしおすえ」とか上から言うわけですね。そうすると、中宮職のスタッフさんも「アンタらやらしいこと言いまんな(しゃあない、ほな乗りぃな)」と言ってしまいます。すると案外そのまますんなり乗っちゃいます。偉そうにしておいて結局そうかよ。
それでも、後続の車が御厨子所の女子スタッフの車だったから灯りも暗くて~、と性懲りもなくバカにしていますね。感じ悪いったら…。
というところで、⑫に続きます。


【原文】

 出でさせ給ひし夜、車の次第もなく、「まづ、まづ」と乗り騒ぐがにくければ、さるべき人と、「なほ、この車に乗るさまのいとさわがしう、祭のかへさなどのやうに、倒れぬべくまどふさまのいと見苦しきに、ただ、さはれ、乗るべき車なくてえ参らずは、おのづからきこしめしつけてたまはせもしてむ」など言ひあはせて、立てる前よりおしこりて、まどひ出でて乗りはてて、「かうか」といふに、「まだし、ここに」といふめれば、宮司寄り来て、「誰々おはするぞ」と問ひ聞きて、「いとあやしかりけることかな。今はみな乗り給ひぬらむとこそ思ひつれ。こはなど、かうおくれさせ給へる。今は得選(とくせん)乗せむとしつるに。めづらかなりや」などおどろきて、寄せさすれど、「さは、まづその御心ざしあらむをこそ乗せ給はめ。次にこそ」といふ声を聞きて、「けしからず、腹ぎたなくおはしましけり」などいへば乗りぬ。その次には、まことに御厨子が車にぞありければ、火もいと暗きを、笑ひて二条の宮に参り着きたり。

 

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