枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に⑫ ~御輿はとく入らせ給ひて~

 定子さまの御輿は早くにお入りになってて、お部屋の調度を整えて座っていらっしゃったの。「ここに呼んで」っておっしゃったから、「どこ? どこ?」って右京、小左近とかっていう若い女房たちが私を待っていて、参上してくる人ごとに見るんだけど、いなかったのね。車から降りる順に4人ずつ定子さまの前に参上して集まって控えてたんだけど、「変だわね。いないの?? どうしたんでしょう?」っておっしゃったのも知らないで、女房たち全員が降りちゃってから、ようやく見つけられて、「あれほどおっしゃってるのに、こんな遅いのって??」って言って、引っ張られてって参上して、見たら、いつの間にこんな長年住んでるお住まいみたいに落ち着いていらっしゃるのか!っておもしろく思えたの。

 「どういうことで、こんなにいないんでしょ??って尋ね歩くぐらい、姿を見せなかったの?」っておっしゃるんだけど、私が何も理由を申し上げないもんだから、いっしょに乗ってた人が、「すごく酷かったんですよ。最後の車に乗って参ったんですから、どうやったら早く参上できたっていうのでしょう? それだって御厨子所の人が気の毒がって車を譲ってくれたんです。暗かったから心細くて…」って辛そうに申し上げたら、「担当のスタッフがだんぜん悪いわね。それにしてもどうしてでしょう? 事情を知らない人は遠慮もするでしょうけど、右衛門なんかは苦情を言ったらいいのに」っておっしゃるのよ。
 「でもどうして、走って自分が押しのけて先に乗ったりできるでしょう?」なんて右衛門が言うの、そばにいる女房たちは、憎ったらしい、って思って聞いてるでしょうね。
 「みっともなく格式高い車に乗っても、それは偉いわけじゃないわ。決められたとおりに順序を守るのがよいのではないかしら」って、定子さまは不快な感じで思っていらっしゃるの。「車から降りるまでの間が、すごく待ち遠しくて辛いのでしょうね」って、私はとりなして申し上げたのね。


----------訳者の戯言---------

「わぶわぶ」というのは何ぞ? 副詞ですよね?と思って調べました。なんと、漢字で「侘侘」と書きます。「侘ぶ侘ぶ」でもいいかもしれません。侘びさびの「侘」という字です。つまり動詞「侘」「侘ぶ」を重ねて副詞化したものだとか。「侘しく思いながら」「つらそうにしながら」という意味になるそうです。今は使いませんね「わぶわぶ」。女子高校生あたりがSNSで使うと流行りそうなんですけどね。逆に。

「もうウチ わぶわぶやわ」
「わぶやんな」
「わぶわぶ行く~」
「わぶわぶみ~」
みたいな会話してほしいです。

右衛門という同僚女房がイキナリ出てきますが、清少納言と同乗してやってきた人の一人なんでしょうね。なかなかつつましやかな人柄のようです。


というわけで、御厨子所の女性スタッフが乗ってる車のライト?が暗い。とか言って馬鹿にしながら乗って来た割には、定子の前ではなんか殊勝なことを言ってる清少納言一派。枕草子、読まれたらバレるのにね。自分で書いておいて、自分でひっくりかえすという荒業。右衛門さんは心細かったらしい。ほんまか!?
⑬に続きます。


【原文】

 御輿はとく入らせ給ひて、しつらひゐさせ給ひにけり。「ここに呼べ」と仰せられければ、「いづら、いづら」と右京、小左近などいふ若き人々待ちて、参る人ごとに見れど、なかりけり。下るるにしたがひて、四人づつ御前に参りつどひて候ふに、「あやし。なきか。いかなるぞ」と仰せられけるも知らず、ある限り下りはててぞからうじて見つけられて、「さばかり仰せらるるに、おそくは」とて、ひきゐて参るに、見れば、いつの間にかう年ごろの御すまひのやうに、おはしましつきたるにかとをかし。

 「いかなれば、かうなきかとたづぬばかりまでは見えざりつる」と仰せらるるに、ともかくも申さねば、もろともに乗りたる人、「いとわりなしや。最果(さいはち)の車に乗りて侍らむ人は、いかでか、とくは参り侍らむ。これも、御厨子(みづし)がいとほしがりて、ゆづりて侍るなり。暗かりつるこそわびしかりつれ」とわぶわぶ啓するに、「行事する者のいとあしきなり。また、などかは、心知らざらむ人(=新参)こそはつつまめ、右衛門など言はむかし」と仰せらる。「されど、いかでかは走り先立(さいだ)ち侍らむ」などいふ、かたへの人にくしと聞くらむかし。「さまあしうて高う乗りたりとも、かしこかるべきことかは。定めたらむさまの、やむごとなからむこそよからめ」と、ものしげにおぼしめしたり。「下り侍るほどのいと待ち遠に苦しければにや」とぞ申しなほす。