蟻通の明神② ~唐土の帝~
中国の皇帝がこの国の帝を何とかして騙して日本を征服しようって、いつも試し事をして、争い事をしかけてきてはプレッシャーをかけてこられるんだけど、ツヤツヤしてて丸くってキレイに削った木の二尺(約60cm)ほどあるのを、「これの上っ側と最後尾『末』ってどっちかわかる?」って問いかけて献上してきて。でも全然知るすべがなくって、帝が思い悩んでいらっしゃるもんだから、気の毒になって、親のところに行って、「これこれこういうことがあるんだよ」って言うと、「ただ流れが速い川に立ったままで横向きに投げ入れたら、向きを変えて流れて行く方を『末』って書いて送りなさい」って教えたの。帝のところに参上して、自分がわかってるかのような顔で「さあ、やってみましょう」って人と一緒に行って投げ入れたんだけど、先に進んだほうに『末』印をつけて、それを返事として遣わせたの、ホントにその通りだったのよね。
----------訳者の戯言---------
一尺≒30.30303030303…cmです。
約60cmですからまあまあのデカさの木の棒みたいなものです。何なんでしょね。ボウリングのピンみたいな感じかな? 何に使うモノ?
しかし、中国の皇帝も意地悪ってうか、変なクイズみたいなの出してきますね。こういうワケのわからない問題出して答えられなかったら征服、みたいなのってフェアじゃないと思うんですが、どうなんでしょう? その頃の力関係を物語っているというか、やっぱり東の端っこのちっちゃい島国ってことで小馬鹿にしてたんでしょうね。
さて、その中将とやらの両親は本当にその木の棒的なモノのことを知ってたんでしょうか。
何となく年寄りの知恵や知識をないがしろにするなよっていうエエ話になりそうな予感もしつつ、③に続きます。
【原文】
唐土の帝、この国の帝を、いかで謀りてこの国討ち取らむとて、常に試みごとをし、あらがひごとをしておそり(=恐れさせ)給ひけるに、つやつやとまろにうつくしげに削りたる木の二尺ばかりあるを、「これが本末いづかた」と問ひに奉りたるに、すべて知るべきやうなければ、帝おぼしわづらひたるに、いとほしくて、親のもとに行きて、「かうかうの事なむある」といへば、「ただ、速からむ川に、立ちながら横さまに投げ入れて、返りて流れむかたを末と記(しる)して遣はせ」と教ふ。参りて、我が知り顔に、「さて試み侍らむ」とて、人と具して、投げ入れたるに、先にして行くかたにしるしをつけて遣はしたれば、まことにさなりけり。