職の御曹司におはします頃、西の廂にて⑧ ~つごもりがたに~
大晦日の頃には、雪山も少し小さくなった感じなんだけど、それでもまだ結構高くって、お昼頃、縁側に女房たちが出てきてた時、ちょうど常陸の介がやって来たの。「どうしたの? すっごく長いこと見かけなかったじゃない」って聞いたら、「別に何てことはないですが。ヤなことがありましたのでね」って言うのよ。「何ごと?」って尋ねたら、「やっぱり…こう思ってたのですよ」って、朗々と声をのばして詠いはじめたの。
うらやまし 足もひかれず わたつ海の いかなる人に もの賜ふらむ
(うらやましくって足も向かないの。いったい全体どんな人に物をお与えになったのかしら??)
って詠んだんだけど、みんな嘲笑して、無視するようになったから、雪の山に登り、うろうろ歩いたりして帰ってった後、右近の内侍(左近の内侍?)に「こんなことあったの」って言ったら、「どうして、人を付けてこっちに来させてくれなかったんです?? 彼女がきまり悪くって、雪の山に登ったりうろうろしてたのは、すごく悲しいじゃないですか」って言うから、また、みんな笑ったの。
----------訳者の戯言---------
常陸の介が作った歌に「わたつうみ」と出てきますが、海。大海のことだそうです。もしかすると「めっちゃいっぱいの」もの、コトを表しているのかもしれません。自信ないですが。
そもそも「わたつみ」というのは海を支配する神。海神。で、「わたつみ」が「渡津海」などと書かれたため、「み(神)」を誤って「海」と解釈してできた語だそうです。
右近の内侍(左近の内侍?)は、この段の③に出てきました。常陸の介に興味津々の人でしたね。
常陸の介、再登場です。どうも例の上品な尼さんが物をもらってたのを見て、やっかんでたらしい。
まだまだ先が読めませんが、⑨に続きます。
【原文】
つごもりがたに、少し小さくなるやうなれど、なほいと高くてあるに、昼つ方、縁に人々出でゐなどしたるに、常陸の介出で来たり。「などいと久しう見えざりつるに」と問へば、「何かは。心憂きことの侍りしかば」といふ。「何事ぞ」と問ふに、「なほかく思ひ侍りしなり」とて、ながやかによみ出づ。
うらやまし足もひかれずわたつ海のいかなる人にもの賜ふらむ
といふを、にくみ笑ひて、人の目も見入れねば、雪の山にのぼり、かかづらひありきて往ぬる後に、<右>[左]近の内侍に、「かくなむ」と言ひやりたれば、「などか、人添へてはたまはせざりし。かれがはしなたなくて雪の山までのぼりつたよひけむこそ、いとかなしけれ」とあるを、また笑ふ。
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