物のあはれ知らせ顔なるもの
情けない気持ちが伝わってくる顔っていうと…。鼻水を垂らし、ひっきりなしに鼻をかみながら話してる声。眉を抜いてる顔。
----------訳者の戯言---------
「物のあはれ」と言えば「源氏物語」というのが定番で、「あはれ」といえば概ね、悲しみやしみじみした情感を指すと言われています。
「源氏物語」は「あはれ」の文学だと。そうですか。まあ、偉い学者の方々がそうおっしゃっているのですから、そういう側面はあるのでしょう。
しかし、ここで出てきた「枕草子」の「あはれ」はなんか違う気もします。「源氏物語」のような高尚なストーリー性もキャラクター描写もないですしね。そんな大そうな「悲哀」でもなさそうです。
だいたい、鼻を垂らす、って。
間断なく鼻をかむって。
で、眉毛を抜いてる顔って。これ、「あはれ」ですか? えーたぶん、それもまた真なりということですね。
即ち「しみじみ悲しい」というよりも、ここでは「みじめな、情けない」あたりのニュアンスの心情だと思います。「もののあはれ」って実はもっと広範で、もっと複雑なものなのだということなのでしょう。
この時代、成人女子は眉毛を抜いて眉墨を引いてたようですが、やっぱその時の顔って情けねーって感じでしょうし(今もそうかも)、鼻水垂らしてたり、鼻かんでたりするのもね、「ダッセー顔」ってことなのでしょう。
「もののあはれ」と言っても、必ずしもあの「源氏物語」の「あはれ」的なものばかりではないのだと、それがわかったのはよかったですね。
【原文】
物のあはれ知らせ顔なるもの はな垂り、間(ま)もなうかみつつ物いふ声。眉抜く。
検:もののあはれ知らせ顔なるもの