枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

成信の中将は⑤ ~雨は心もなきものと~

 雨は風情の無いものと思いこんでしまってるからかしら? ほんの少しの時間降るだけでも憎ったらしく思えるわ。高貴な宮中行事や面白いだろうなっていうイベント、尊くてすばらしいはずのことも、雨が降ってしまうとどうにも言いようがなく悔しいのに、何でその濡れて愚痴を言いながら男が来るのがすばらしいってことになるワケ??
 交野の少将を非難した落窪の少将なんかはいかしてるわね。昨夜、一昨夜と続けて通ってきてたからこそ、雨の夜でもいい感じなのよ。でも足を洗ったのは気に入らないわ。汚かったのかしら??
 風なんかが吹いて、すごく荒れ模様の夜に来たのは、頼もしくってうれしくもあるでしょうね。 


----------訳者の戯言---------

「交野の少将」というのは、④で出てきた「狛野物語(こま野物語)」と同じく現存する写本はなく、逸書となっている「交野の少将」「交野少将物語」という物語の主人公だそうです。
交野は今の大阪府交野市のことで、ここに住んでいた少将は、右近衛少将だった藤原季縄(すえただ/すえなわ)という人、 また季縄と交友関係にあった稀代の色男・在原業平もミックスした形でモデルにされたそうですね。
フィクションにおいては、「源氏物語」の光源氏が登場するまではこの「交野の少将」が美男子の代名詞的な存在であったようです。

「落窪の少将」というのは、「落窪物語」の主人公の姫君の相手役(夫)です。この人も右近の少将なのですが、後に三位の中将、中納言兼衛門督、大納言兼左大将、左大臣太政大臣と昇進していきます。高貴でエリート。ってか太政大臣って帝を別にすると朝廷のナンバー1ですからね。
落窪の姫以外に妻も恋人も持たず、彼女だけを一生愛し続けたそうで、これだけの家格、官位のある男性としては当時には非常に珍しいタイプの人です。

落窪物語」は継子いじめのお話の代表作で、いじめられた継子が幸せを勝ち取るというシンデレラストーリーとなっています。似たようなのに「住吉物語」というのがありましたね。
落窪物語」は中納言の屋敷の落ち窪んだ部屋で継母からの虐待に耐えながらひっそりと暮らしている「落窪の姫君」と呼ばれる美しく心優しい姫君がいて…って言う話です。姫君は継母にめちゃくちゃいじめられますが、一転して夫の右近の少将が継母にこれまためちゃくちゃ復讐するという話…らしいです。

一説にはこの右近の少将、モデルとされているのは、実在の藤原道頼です。この枕草子でも何度か登場しました、道隆の長子ですね。伊周や定子の母違いの兄です。山の井の大納言(山井大納言)と言われた人で、ルックス、性格共にすばらしい人であったとのことでした。


説明が長かったですが、その女性には一途な「落窪の少将」が、色好み=プレイボーイとして有名な「交野の少将」を非難したらしいですね、「落窪物語」の中で。それがなんか趣があってよろしい、ってことみたいです。連夜通って雨の日も厭わずに来るのですから。が、足元が悪くて足が汚れたのを洗ったのはいただけませんわ、と。でも風が強い荒天の時には頼もしいわ~。どないせーっちゅうねん!って話です。
この段もいよいよ次の⑥にて完結。結局、天気と男の話なの??


【原文】

 雨は心もなきものと思ひしみたればにや、片時降るもいとにくくぞある。やむごとなき事、おもしろかるべき事、たふとうめでたかべい事も、雨だに降れば言ふかひなく、口惜しきに、何かその濡れてかこち来たらむが、めでたからむ。

 交野の少将もどきたる落窪の少将などはをかし。昨夜(よべ)、一昨日(をととひ)の夜もありしかばこそ、それもをかしけれ。足洗ひたるぞにくき。きたなかりけむ。

 風などの吹き、荒々らしき夜来たるは、たのもしくて、うれしうもありなむ。