枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

さかしきもの

 小賢しいもの。今どきの三歳児。幼児の祈祷をしてお腹なんかを揉んでる女。いろんな道具を出してもらって祈祷用のモノを作るんだけど、紙をたくさん重ねて全然切れ味のよくない刀で切る様子は、1枚だって切れそうもないのに、そうすることに使う道具に決まってるからって、自分の口を歪めて無理して切って。隙間の多い道具をいくつか使って掛竹を打ち割ったりなんかしてね、すごく神々しく仕立てあげて、体を揺り動かして祈祷するのがすごく抜け目ないのよ。一方では、「何々の宮、そこの家の若君がめちゃくちゃ大変なことになってるのを一掃するみたいにお治し申し上げたから、ご褒美をたくさんいただきました。あの人、この人といろんな祈祷師をお召しになったけど、効力が無かったもんだから、今でも私をお召しになるんです。ご贔屓いただいてますよ」なんて語ってる顔もみっともないの。
 身分の低い家の女主人。アホな者。でもそれがまた小賢しいことに、ホント聡明な人を教えたりするの。


----------訳者の戯言---------

「さかし」というのは、「賢い」ということです。かしこい? 漢字で「賢し」と書きます。
ここでのニュアンスとしては、頭が良くて抜け目ないというか、「小賢しい」とでも言うのでしょうか。「さかしい」に「小」がつく感じですね。disってる感じ。


「目多かるものどもして」はそもそもよくわからなかったです。

「目」は、文字どおり物を見る目の意味で使うことが多いです。それと、すき間や継ぎ目、網目、穴などのことを指す場合もあります。「目が粗い」とか「細かい」とか「目が詰まってる」とか言いますが、あれです。2カ月ほど前に読んだ「雪は」という段で「瓦の目ごとに入りて」という一節が出てきましたが、瓦の「継ぎ目」のことでした。
他には「会う」とか「見る」とかの意味があります。遭遇する「事態」のことを言ったりもするらしいですね。

最初、たくさん会う者のいる(忙しい)人たちを使ってでも…と訳したのですが、何か違うんですよね。そんないっぱい人を使うような立場の人ではなさそうです。ちょっと自慢気な祈祷師の女性のようですから。
なので道具かと。結局、隙間というか、なんかそういう「目」的なものがたくさんある竹を割る道具なのだと思います。調べましたが具体的にはわからずです。


掛竹(かけたけ)というのは、御幣(ごへい)をかける竹なのだそうです。御幣というのは神道の祭祀で神様に捧げられる2本の紙垂(しで)を竹、または木の幣串(しでぐし)に挟んだもの。もしゃもしゃっと大量に紙(布)が垂れているものもあります。
中部地方、長野とかの山のほうの地方で「五平餅」ってありますけど、あれは「御幣餅」が語源という説が強いらしいですね。形が似ているからですって。なるほど。

この竹垣に竹立てかけたのは竹立てかけたかったから竹立てかけた

早口言葉で、こういうのありますけど、「竹」のところを「掛竹」に変えたらもっと難しいのになーと思いました。それだけです。関係ないんですが。


痴(し)るというのは、愚かなことをする、ボケる、アホなことをする、みたいな意味だそうです。


ということで「さかしきもの」というのは、賢げではあるけれども、そのクレバーさをアピールし過ぎること余りあってイタい方のこと、を揶揄して言ってるのでしょう。むしろ最後に出てくる「痴れたる者」のことなんですね。つまり現代で言うなら「お利口さんな人」という言い方に近いかもしれません。完全にdisってます。
私たちも本当にクレバーな人のことは「お利口さん」とは言わないですものね。


相変わらず清少納言の見下し方は酷いです。前の段に続いて身分の低い人に対しては容赦ないです。


【原文】

 さかしきもの 今様の三歳児(みとせご)。ちごの祈りし、腹などとる女。ものの具ども請ひ出でて、祈り物作る、紙をあまたおし重ねて、いと鈍き刀して切るさまは、一重だに断つべくもあらぬに、さるものの具となりにければ、おのが口をさへ引きゆがめておし切り、目多かるものどもして、かけ竹うち割りなどして、いと神々しうしたてて、うち振るひ祈ることども、いとさかし。かつは、「なにの宮・その殿の若君、いみじうおはせしを、掻い拭(のご)ひたるやうにやめ奉りたりしかば、禄を多く賜りしこと。その人かの人召したりけれど、験(しるし)なかりければ、今に嫗(おんな)をなむ召す。御徳をなむ見る」など語りをる顔もあやし。

 下衆の家の女主(あるじ)。痴れたる者、それしもさかしうて、まことにさかしき人を教へなどすかし。

 

歴史読み 枕草子―清少納言の挑戦状

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