枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

なほめでたきこと③ ~大輪など舞ふは~

 大輪なんかを舞うのは、一日中見てても飽きないでしょうに、それが終わっちゃうと、すごく残念なんですよね、またあるんだって思ったらあてにもできるんだけど。御琴をかき鳴らして、竹の植え込みの後ろから舞いながら出てくる様子なんかは、とてもすばらしいから。掻練(かいねり)の艶、下襲なんかが乱れ合ったりして、あちらこちらに交差したりするのは、さあ、これ以上言っちゃうと、ありきたりのことになっちゃうわね。

 今回は、もう一回舞いがあるはずもないからかな? 終わっちゃうのが、ものすごく残念で。上達部なんかも、みんな続々と出て行かれるから、物足りなくってがっかりなんだけど、賀茂の臨時の祭の時は、還立の御神楽(かえりだちのみかぐら)とかがあるから気持ちも慰められるってものだわ。庭燎(にわび)の煙が細く上っていくのに合わせて、神楽の笛がすてきに響いて、澄んだ音色が昇ってくんだけど、歌の声もとっても風情があって、すごくいい感じで。寒くて凍てついて、打衣も冷たくって、扇を持ってる手も冷えてるんだけど気づかないの。才の男を召すのに、長く声を引いてる人長の満足そうな様子も、すごくすばらしいのよね。


----------訳者の戯言---------

大輪(おおわ)というのは、駿河舞の手ぶり、所作の名前というか、詳しく言うと、駿河舞を終了した舞人たちが全員で大きな輪になって舞いながら退場する時の手の振り方らしいですね。その舞自体のことも大輪といったのでしょう。

掻練(かいねり)というのは、 襲 (かさね) の色目の一つ。表裏ともに紅で、冬から春まで用いられたそうですね。

下襲は束帯の内着で、半臂または袍の下に着用します。今で言うとシャツ的なものでしょうか。後ろ側の「据(きょ)」という部分を出して、ものによっては長く引いたりします。

還立の御神楽(かえりだちのみかぐら)というのは、賀茂の臨時祭が終了したのち、祭の使いや舞人、楽人たちが宮中に戻って清涼殿の東庭で神楽を演じたそうで、そのことをこう言ったらしいです。

庭燎(にわび)とは、宮中で神楽のときに焚く篝(かがり)火のこと。神を招く役割とともに、照明の役目もあったようです。

石清水八幡宮の臨時の祭のある旧暦の3月は、太陽暦なら4月頃ですから、そこそこ暖かいです。賀茂神社の臨時の祭のある旧暦11月は太陽暦で行くと12月ぐらいのことが多いですから、寒かったでしょうね。

人長(にんじょう)というのは、神楽の指揮者的な人らしいです。
才の男(ざえのおのこ)というのは、神楽などで、人長に召されて、滑稽な舞や所作を演ずる者のことだそうです。文字通り、才能のある人、芸能にたけた人だったようですね。

大輪というのは、ま、フィナーレの演舞なのでしょう。毎回、勝手なイメージなんですが、宝塚のレビューのフィナーレ、あの感じですか。いちばん盛り上がるとこですね。

で、この石清水八幡宮の臨時の祭があっけなく終わるのに比べて、賀茂神社の臨時の祭は「還立の御神楽」があるからいいわ~ということなのでしょうか。寒さも忘れるぐらい、すばらしい、ってことですね。あれだけ誉めてたのに、後半は気持ちが賀茂のほうに傾いてます、清少納言
というわけで④に続きます。


【原文】

 大輪(おほわ)など舞ふは、日一日見るともあくまじきを、果てぬる、いと口惜しけれど、またあべしと思へば、頼もしきを、御琴かきかへして、このたびは、やがて竹の後ろより舞ひ出でたるさまどもは、いみじうこそあれ。掻練のつや、下襲などの乱れあひて、こなたかなたにわたりなどしたる、いでさらにいへば世の常なり。

 このたびは、またもあるまじければにや、いみじうこそ果てなむことは口惜しけれ。上達部なども、みなつづきて出で給ひぬれば、さうざうしく口惜しきに、賀茂の臨時の祭は、還立(かへりだち)の御神楽などにこそなぐさめらるれ。庭燎(にはび)の煙の細くのぼりたるに、神楽の笛のおもしろくわななき吹きすまされてのぼるに、歌の声もいとあはれに、いみじうおもしろく、さむく冴えこほりて、うちたる衣もつめたう、扇持ちたる手も冷ゆともおぼえず。才(ざえ)の男(をのこ)召して、声引きたる人長の心地よげさこといみじけれ。

 

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上

  • 作者:萩谷 朴
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 単行本