枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

心にくきもの② ~夜いたくふけて~

 夜がとても更けて、定子さまもお休みになられて、女房たちがみんな寝てしまった後、外の方で殿上人なんかがお話をしてたら、奥で碁石を碁笥に入れる音が何回も聴こえるの、すごく奥ゆかしいわ。火箸をそっと灰に突き立てる音をを、まだ起きてたんだわ、って聞くのも、とても素敵な心地がするわね。やっぱり、夜に眠らない人は奥ゆかしいのよ。人が横になってるのを、物を隔ててる時、夜中なんかにふと目を覚まして聞くと、起きてるっぽいわ、ってわかって。でも話してることは聞こえなくって、男性もひっそりと笑ってるものだから、何を話してるのかしら?って、知りたくなるわ。

 また、定子さまもいらっしゃって、女房とかが侍ってるんだけど、殿上人や典侍(ないしのすけ)なんかの、こっちが恥ずかしくなるくらい立派な方たちが参上した時、定子さまの近くでお話などをなさる間は、明かりも消してるんだけど、長炭櫃の火で物の区別もはっきり見分けられるの。


----------訳者の戯言---------

笥(け)というのは、何ぞ?と思い、調べてみました。食べ物を入れる器だそうです。そういえば、「家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る」という歌がありました。たぶん、学生時代の古文の授業で習ったかと。万葉集の歌です。
ですが、食器の意味だけでなく、物を入れる容器のことも「笥」と言うんですね。碁石を入れるものは「碁笥(ごけ)」と言うそうです。奥の方で、誰かが碁を打っているのでしょうか。

夜、眠らない人は奥ゆかしいそうです。ゲームとかYouTubeで夜更かししてもおkですか? なわけないよね。

では、その昔、「夜」というのはいつからいつまでなのでしょう?
前に朝について調べたら、「暁」というのは未明のことでした。
「宵」は日が暮れてから間もない頃、日没後1時間ほど、と以前に書いたこともあります。
もちろん季節によってもかなり違いますから、時刻、時間帯で表すのは難しいんですが、夜について調べてみました。

●暮(17~19時)日没前後のことだと思います。所謂夕暮れです。
●宵(17~21時)日没から1時間ほどを言ったようです。まだまだ宵のうち、ですね。
●夜(21~23時)宵を過ぎたあたりから、夜になるようです。
●真夜(23~1時)読み方としては「まよ」です。岡本真夜と同じですね。TOMORROWの。「涙の数だけ強くなれるよ アスファルトに咲く花のように」の人です。実はGoogleで「真夜」を検索するとやたらと岡本真夜が出てきます。またまた話がそれましたが、夜の真ん中を「真夜」言ったらしいです。0時前後です。
●夜(1~3時)真夜を過ぎると夜に戻ります。っていうか、21時~3時くらいが夜で、その真ん中あたりを「真夜」と言うんですね。
●暁(3~5時)暗いうちの夜明けを言うようですね。夜が終わった後。「あけぼの」よりは前でしょうか。現代語で言うと、未明というニュアンスです。

以上でした。やはり「夜」(3時くらいまで)起きてるのが、清少納言的に奥ゆかしいようですね。私も奥ゆかしく、ドラクエでもやるようにします。

長炭櫃。長い炭櫃です。
床(ゆか)を切って作った四角の炉。囲炉裏でしょうか。もしくは、部屋に据えつけた角火鉢。と言われています。現代で言うところの、ビルトイン、作り付け、ですね。よくインテリアをビルトインにすべきか否かと議論されますが、イニシャルコスト、メンテナンスコストを考えて選びましょう。余計なお世話ですが。

あやめ。漢字では「文目」と書きます。模様、物の形・色の区別、筋道、といった意味があるようです。

PCで「あやめ」と入力して変換すると「菖蒲」と出ます。「しょうぶ」と入力して変換しても「菖蒲」と出ます。では「あやめ」と「しょうぶ」同じものなのでしょうか? 否。全く違います。漢字は同じですが、違うんですね。ややっこしい。
「しょうぶ」はショウブ目ショウブ科のショウブ属の植物。「あやめ」「花菖蒲」「かきつばた」は、キジカクシ目アヤメ科アヤメ属なんです。ね?

ね?って言われてもー。とは思いますが、所謂、五月の節句は菖蒲の節句ですから、花菖蒲やあやめ、かきつばた的な花は、本来の意味からすると登場するものではありません。「菖蒲湯」の菖蒲はショウブ科のショウブです。が、現代はこれを混同するようになっています。端午(菖蒲)の節句に花菖蒲やあやめを飾るというのはポピュラーになりつつありますね。花を咲かせる時季も同じ頃ですし。

で、文目(あやめ)とどう関係があるのかというと、無くはないのです。ショウブ科のショウブの花には模様がしっかりとありますし、そもそも和語で「あやめぐさ」と言われていたのがこの植物だったそうですから。
アヤメ科アヤメ属「あやめ」がなぜ「あやめ」になったのかは諸説あるようですが、名前について言うと結果的には本家を乗っ取った形になっています。「花菖蒲」のほうは、「菖蒲」に葉っぱが似ているけれど美しい花が咲くということでこの名前になったようです。これも本家由来ですね。

言葉もそうですが、文化も時代とともに変わって行くものです。私はそれでいいと思います。
で、あやめと言えば、ZOZOTOWNのあの方のあの人なんですが、ちょっとそこまで書くのはやりすぎですし、書き始めると行数も莫大に費やしてしまいますから、今回はやめておきます。またの機会に。

夜。結構平安貴族の男女は夜更かしのようです。概ね静かなんですが、おしゃべりしたり、なんかゴソゴソやっているようでもあります。
こういうのが、宮中における「奥ゆかしい」感じなんですかね。
今回は、あやめ、菖蒲のことについて書き過ぎました。すみません。
③に続きます。


【原文】

 夜いたくふけて、御前にも大殿籠り、人々みな寝ぬる後、外のかたに殿上人などのものなどいふに、奥に碁石の笥(け)に入るる音あまたたび聞こゆる、いと心にくし。火箸を忍びやかに突い立つるも、まだ起きたりけりと聞くも、いとをかし。なほ寝(い)ねぬ人は心にくし。人の臥したるに、物へだてて聞くに、夜中ばかりなど、うちおどろきて聞けば、起きたるななりと聞こえて、いふことは聞こえず、男も忍びやかにうち笑ひたるこそ、何事ならむとゆかしけれ。

 また、主もおはしまし、女房など候ふに、上人(うへびと)、内侍のすけなど、はづかしげなる、参りたる時、御前近く御物語などあるほどは、大殿油も消ちたるに、長炭櫃(すびつ)の火に、もののあやめもよく見ゆ。

 

まんがで読む 枕草子 (学研まんが日本の古典)

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