日のいとうららかなるに④ ~はし舟とつけて~
はし舟って名付けて、すごく小さいのに乗って漕いで動き回るの、早朝なんかはとてもしみじみとしていい感じだわ。「跡の白波」はほんと、すぐ消えて行っていまうの! いい身分の人は、やっぱり舟に乗ってあちこち行くべきじゃないって思うわね。歩いて行く旅もまた恐ろしいだろうけど、それはどうしたってなんてったって、地面に足が着いてるから、すごく安心なの。
----------訳者の戯言---------
「跡の白波」というのは、「世の中を何にたとへむ朝ぼらけ 漕ぎゆく舟のあとのしら浪」(世の中を何にたとえようか? 夜明けに漕いだ舟のあとに立った白波か…)という歌の最後のワンフレーズです。
「跡の白波」=「はかない情趣」を表したり「はかないもののたとえ」に使われるようですね。ここでは喩えでもなんでもなくそのまんまですが。
詠んだのは奈良時代の僧で歌人であった沙彌満誓(さみまんせい)という人。俗名は笠麻呂(かさのまろ)と言い、姓は朝臣だったため、笠朝臣麻呂(かさのあそんまろ)と表記されている場合もあります。
小さい舟で動き回るのは「あはれ」だから良い? それとも恐ろしいことだから悪いことなのか? よくわかりません。
果たしてその答えは出るのか?? ⑤に続きます。
【原文】
はし舟とつけて、いみじう小さきに乗りて漕ぎありく、つとめてなどいとあはれなり。「跡の白波」は、まことにこそ消えもて行け。よろしき人は、なほ乗りてありくまじきこととこそおぼゆれ。徒歩路もまた、おそろしかなれど、それはいかにもいかにも地(つち)に着きたれば、いとたのもし。