枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

星は

 星は、昴(すばる)。彦星。夕づつ。よばい星は少しおもしろいわ。尾さえなかったら、もっといいんだけどね。


----------訳者の戯言---------

すばる。昂です。あの谷村新司の歌った昴。自動車メーカーのスバルを思い起こす人もいらっしゃるでしょうね。
牡牛(おうし)座の中にある星団で肉眼では6個に見えますが、もっとめちゃくちゃ多いです。星団ですから。数百あるらしいですね、星。
欧米ではプレアデス星団と言われています。日本では六連星 (むつらぼし)とも言われます。
ただ、谷村新司の昴って、名曲みたいに言われていますけどなんか意味がよくわかりません。詞そんないいですか? アレンジですかね、なんかこう荘厳な感じっていうか。それはそれでいいんですけど。

で、クルマのスバルのほうはエンブレムが六連星なんですね。以前は富士重工業という社名でしたが、今は株式会社SUBARUです。私はあのドラマ仕立てのちょっといい話的なCMが苦手というかちょっとウザい派なんですが、あのスバルです。
昴というのは元々「統ばる(すばる)」という古い言葉から来ていて、「集まって1つになる」という意味だそうですね。


牽牛(ひこぼし)=彦星。あの七夕のバカップルの彼氏のほうです。わし座のα星、即ちわし座で最も明るい恒星で1等星です。アルタイルと呼ばれています。やはり明るい星なので目立ちますね。ちなみに織姫星と呼ばれているのはこと座のベガです。
和名類聚抄には「比古保之(ひこぼし)」とあるらしいです。別名として「以奴加比保之(いぬかいぼし)」の名前もあり、これは、β星、γ星を両脇に従えているため、犬を引き連れている姿に見立てられたもの、とのことです。


「夕づつ」というのは、夕方、西の空に見える金星。所謂、宵の明星。「夕つづ」とも書いたり読んだりします。今は夕星と書いて「ゆうづつ」「ゆうつづ」と読みます。「ゆうぼし」と読むと×が付けられますので要注意。

で、これは高校の地学ぐらいのレベルの話になりますが、宵の明星というのは、東方最大離角前後にある金星の別名なのです。地球から見て内惑星(水星と金星ですね)が太陽の東側にあるときを東方最大離角にある、と言いまして、金星が太陽の東にあるということは日が沈んだ後ぐらいに太陽を追っかける感じで西の地平線に沈みます。もちろん昼間も太陽を追っかけてるんですが、明るくて見えないので、日が沈んで暗くなってから登場するんですね。

1会合周期は583.9日だそうですから、1年と7カ月余りごと、数週間にわたって、日没後の西の空で輝いて見えるというのが、この宵の明星、夕づつです。
これに対して明けの明星とは、西方最大離角前後にある金星の別称です。同様に1会合周期(583.9日)ごとに数週間にわたって日の出前の東の空に輝いて見えます。


「よばひ星」の「よばふ」は「ずっと呼びかけ続ける」という意味の言葉です。元は「呼ばふ」なんですね。「呼ぶ」の複数形、つまり、名前を呼ぶことを継続的に行うと。ま、当時は男性が女性の元に通うというのが逢瀬のスタイルで、「よばふ」とは「夜、男の人が好きな女の人の元へ人にかくれて何度も会いに行く」という意味だったのでしょう。
で、何度か通うと「結婚」となります。で、「よばふ」を「婚ふ」と書くこともあったりします。

で、その「よばひ星」ですが、流れ星のことなんですね。
流れ星っていうのは恋し過ぎて魂だけがぬけ出して、好きな人のところへ会いに行く姿に例えられていたようです。ま、源氏物語なんかもそうですけど、この時代、生き霊とか結構信じられてましたし、流れ星がそういったものの一種というか、実行動はせずとも魂が行っちゃうという、なかなかの思いの強さです。

ただ、誤解されがちなのは、「よばひ」というと「夜這い」を連想させますが、これはかなり後年、江戸時代以降の当て字のようですね。字面や響きが、かなり淫靡な行為をイメージさせますが、これは誤解かと思われます。当て字ですから。
もちろん今の「夜這い」はこのポピュラーな「夜這い」でいいんですが、平安時代の「よばふ」はそれほどフィジカルではなく、もう少しメンタルというか、恋心のほうのウエイトが高い感じがします。
かといってもちろん、肉体的なことも伴うものでありましたし、それぞれの立場みたいなものもあったりして、忍んで逢いに行くことが多かったのも間違いではありません。秘め事であるのは当時も共通認識としてあったと思われます。

「よばひ星」(流れ星)が尾を引くことを、彼女がなぜ嫌がったかは不明ですが、魂とはいえ、あまりおおっぴらに派手派手しく逢いに来るものではありませんわよ、という意味かと考えられているようですね。


そう言えば、ググってたら、なにわ男子が「夜這星」という曲を最近リリースしてるらしいです。聴いたことはありませんが、結構しょぼい歌詞でした。ファンの方ごめんなさい。


【原文】

 星は すばる。牽牛(ひこぼし)。夕づつ。よばひ星、少しをかし。尾だになからましかば、まいて。

 

 

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上

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