枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

身をかへて、天人などは

 生まれ変わって天人になるなんていうのはこういうことなのかしら?って見えるものは、普通の女房としてお仕えしてる人が御乳母になった場合ね。唐衣(からぎぬ)も着ないで、裳(も)だって、オーバーに言うとしたら着けてないような格好で、御前で添い寝をして、御帳台の中を居場所にして、女房たちを呼びつけて使い、自分の局(部屋)に用事の使いを出したり、手紙を取り次がせたりなんかしてる様子は、言葉で表しきれないくらいだわ。

 雑色(ぞうしき)が蔵人になったのも、素晴らしいわ。去年の十一月(しもつき)の臨時の祭に御琴(みこと)を持ってた時は一人前とは思えなかったけど、若君たちと連れ立って歩く様子を見たら、どこの人なの?ってさえ思えちゃう。でも他の部門から蔵人になった場合なんかは、そんなにすごくは思わないの。


----------訳者の戯言---------

女房というのは、袿(うちき/うちぎ)、内衣、表衣(うわぎ)などの上に唐衣(からぎぬ)と裳(も)を着けて正装としたわけですが、唐衣は、その女房装束(十二単)の一番上に着用する、腰までの長さの短い上衣です。裳はボトムスですね。巻きスカートみたいなやつです。
この二つを着ないでいる、ということは、ま、正装からするとだらしない感じなのかもしれませんが、家のリビングで下着で過ごしてるほどではありませんね。下にちゃんと服を着ているわけですから、それほどびっくりするほどのことではないと思います。なのに、清少納言がわざわざ書いているということは、まあ女房としてはそこそこのラフさ加減なんでしょうね。

雑色(ぞうしき)は文字通り雑用係です。無位の下級役人とされていますが、中には優秀で蔵人になる人もいたのでしょう。

神社にはそれぞれの例祭ではなく、臨時に行なう祭があります。単に「臨時の祭」というと特に、毎年旧暦11月、下(しも)の酉(とり)の日に行なう賀茂神社の祭のことを言うことが多いようですね。特に十一月と出てくると賀茂の臨時祭となります。

そういえば「なほめでたきこと」という段が前にありましたが、あれは春で石清水八幡宮の臨時祭の頃のことでした。


で、今回はそもそもそれほどでもなかったけど、一気に出世をした人のことを書いています。しかし御乳母については、これ結構disってませんか? なんか必要以上に感じ悪く書いてるような気がします。ま、成り上がりというか、そういう部分もあったのかもしれません。元々同クラスの立場だったのが、上役になって、偉くなったものよね的な妬みみたいなものが感じられます。

蔵人は蔵人所の雑色が蔵人になった場合は絶賛。ただ、他の部署から蔵人になってもそれほどではないらしいです、清少納言的には。ジョブローテーション的に蔵人になるよりは、蔵人所生え抜きのほうがいい、ということですかね。他部署から来た人を差別してますね。内勤から営業に転属してきた人をイジメたり、逆に営業販売から総務とかに行ってイジメられたりするの、昭和的ですね。もっと昔ですか。
蔵人所は帝の側近部門として特別感があるのでしょうから、ジョブローテーションでやってくる人もエリート候補のはずなんですけどね。
ま、今の民間企業で言うと、社長室のスタッフみたいなものでしょうか。文中にもありましたが、長くいると将来の幹部候補(君達)とも懇意になれるというメリットがありそうです。


【原文】

 身をかへて、天人などはかうやあらむと見ゆるものは、ただの女房にて候ふ人の、御乳母(めのと)になりたる。唐衣(からぎぬ)も着ず、裳をだにも、よう言はば着ぬさまにて御前に添ひ臥し、御帳のうちを居所(ゐどころ)にして、女房どもを呼びつかひ、局(つぼね)にものを言ひやり、文(ふみ)を取りつがせなどしてあるさま、言ひつくすべくもあらず。

 雑色(ざふしき)の蔵人になりたる、めでたし。去年(こぞ)の十一月(しもつき)の臨時の祭に(=雑色が)御琴(みこと)持たりしは、人とも見えざりしに、君達(きんだち)とつれだちてありくは、いづこなる人ぞとおぼゆれ。(=雑色の)ほかよりなりたるなどは、いとさしもおぼえず。


検:身をかへて天人などは

 

枕草子

枕草子

  • 作者:清少 納言
  • 発売日: 2018/05/16
  • メディア: Audible版