枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

いやしげなるもの

 下品っぽいもの。式部の丞の笏(しゃく)。黒い髪の毛筋が悪いの。布屏風の新しいの。古くなって黒く汚れたのは、そんなに語る意味さえないものだから、ぜんぜん何にも気にならないんだけどね。新しく仕立てて、桜の花がいっぱい咲いてる風景を、胡粉(こふん)や朱砂(すさ)なんかで色鮮やかな絵とかにしてるの。遣戸厨子。お坊さんなんだけど太ってるの。本物の出雲筵(いずもむしろ)で作った畳。


----------訳者の戯言---------

笏(さく/しゃく)というのは、束帯のとき威儀を正すために持ってた長さ1尺2寸 (約 40cm) の板状のものだそうです。ドラマとかでもちょいちょい見かけるし、昔の絵とかでも見たことのあるあれですね。ま、本来は上品であるべきものなわけですね。

で、平安時代には公事や儀式の細かい作法が定められていたわけで、でもそれを全部覚えるのはたいへんで、笏紙というカンペを貼っていたようなんですね、笏に。特に式部省の役人は貼ってました。式次第を管理する役所ですからね。ただ、上級の役人なら何本も笏を持ってたからいいんですが、中下級の役人は笏を何本も用意できる経済的余裕はなかったらしいです。

ここに出てきたのは式部の丞ですから、中ぐらいのクラス(五位~六位)でしょうか。笏にそのメモみたいなのをベタベタ貼っていたので、結構笏が汚れてたらしいです。なので、下品だと。哀しいですね。

筋(すじ)。髪の毛を梳かした時の筋目なんでしょう。毛流れですね。さらさらーっとしてる長い黒髪のスムーズな毛流れは「筋がいい」、そうじゃないものは「筋が悪い」ということなんでしょうね。

布屏風とは、布を張って絵などを描いた屏風のことだそうです。これも下品なのか。

胡粉(ごふん)というのは、白色顔料のひとつ。中国の西方を意味する胡(こ)から伝えられたことから、胡粉と呼ばれるのだそうです。
朱砂(すさ)は、辰砂(しんしゃ)ともいうもので、硫化水銀(HgS)からなる鉱物だそうです。こちらは中国の辰州(現在の湖南省近辺)で多く産出したことから、「辰砂」と呼ばれるようになったのだとか。赤色の顔料にするほか、漢方薬にも使われるそうですね。

つまり、桜の花をいっぱい描いて、さらに白や赤の鮮やかな顔料を使って、派手派手しく描いてるのが下品、ってことなんでしょう。

遣戸厨子(やりどずし)。厨子(ずし)は、仏像・仏舎利・教典・位牌などを中に安置する仏具の一種だそうですが、観音開きではなく、引き戸になってるのが下品なんでしょうか。

出雲筵(いずもむしろ)というのは、出雲の国でつくられた筵だそうです。目が粗いから下品なんでしょうね。ほんまもんの出雲筵は目が粗いらしいです。笑
とすると、ニセモノの出雲筵は目が細かいんでしょうか??

畳というのは、この前の段でも出てきましたが、当時は筵に縁をつけたものを「畳」と言ったらしい。当時の部屋は板張りで、必要に応じてそれを敷いて用いたんだそうです。今みたいに板状にはなってなかったんですね。

というわけで、今回は、下品なものあるあるです。
なんとなくわかるような気はします。


【原文】

 いやしげなるもの 式部の丞(ぜう)の笏。黒き髪の筋わろき。布屏風のあたらしき。古り黒みたるは、さるいふかひなき物にて、なかなか何とも見えず。あたらしうしたてて、桜の花おほく咲かせて、胡粉(こふん)、朱砂(すさ)など色どりたる絵どもかきたる。遣戸厨子(づし)。法師のふとりたる。まことの出雲筵(むしろ)の畳。

 

NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子

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