枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

わびしげに見ゆるもの

 つらそうに見えるものというと…。6、7月のお昼頃から午後3時頃くらいに汚らしい車を貧相な牛に引かせて、ガタガタ揺らせながら行く者。雨が降らない日に雨除けの筵(むしろ)を張り巡らしてる牛車。すごく寒い時期、暑い頃なんかに身分の低い、身なりの悪い女が、子どもを背負ってるの。年老いた乞食。黒くて汚い小さな板葺き屋根の家が雨に濡れてる様子。また、雨がひどく降ってるのに小さい馬に乗って先追いをしてる人。冬はそれでもまだいいの。でも夏は袍も下襲も(汗で?)一つに合わさってしまうのよね。 


----------訳者の戯言---------

「わびし」というのは、「つらい」とか、「やりきれない」と言う意味だそうです。「気=げ」が付きますから、厳密に言うと、つらそう、やりきれなさげ、というニュアンスでしょうか。見た感じを言っているのでしょうか。

午(ご/うま)は「正午」という言葉からもわかるとおり、今のお昼の12時を真ん中とする時間帯。つまり午前11時~午後1時です。未(み/ひつじ)はその次の時間帯(午後1時~3時)を指しました。

十二支を使った時刻表現というのは1日を12個に分けて数える、つまり12進法ということになります。十二支というのは、もともとは日付を記録するものだったらしいんですが、後に年、月、時刻、方位を表すようになったんだそうですね。私は専ら、年、時刻、方位を表すものだと思っていましたが、そればかりではないということなのでしょう。で、十二支というと、子(ね=鼠)丑(うし=牛)寅(とら=虎)みたいなものとも思ってますが、元々はそれぞれ「気」がどーのこーの、っていうのを一文字ずつ漢字で表現したものらしいです、中国のものですから。で、一個ずつ動物を充てたのは後付けらしく、これでこの12進法数え方を一般に浸透させようとしたらしいんです。後付けといってもそこそこ古いものですから、今さら「十二支=動物」をニセモノ扱いしてはいけないと思いますけど、何でこの字がこの動物?とか考えるのは無意味な気がしますね。

旧暦の6~7月というと、真夏です。そのいちばん暑い時間帯にねぇ。っていう感じ、汗ダラダラな感じ、わからなくはありません。

張り筵(はりむしろ)とは、雨などを防ぐために張りめぐらす筵(むしろ)のことだそうです。

原文にある「乞食(かたゐ)」は、乞食(こじき)、物乞いのこと、です。

袍(うえのきぬ)は上着、下襲(したがさね)はシャツ的なものでしたね。

さて本題。
今回はツラそうに見えるもの特集です。やはり、汗やら雨やらでぐしゃぐしゃになったりベトベトになったりしている様子ですね。みすぼらしい、貧相な感じもさらにその「つらそうな感」を倍加させています。わからなくはないのですが、もう少し意外な視点があってもいいように思います。

その点、前の段に続いてになりますが、「徒然草」では、一流職人が作った輸入物とか、日本製でもレアな調度品なんかをずらずらっと並べて、庭の植え込みなんかも立派に作り上げちゃってるのが、「いとわびし」と書いています。清少納言とは逆の視点ですね。

他にも「徒然草」では、よく解ってもないことを、したり顔で年配の人が、反論できない人たちに言い聞かせてるのを「そんなことないのになー」と思いながら聞いてるのは「いとわびし」だとも。社長とかのつまらない説教や訓話を聞いている部下の気持ち。たしかにつらいですね。

時代も違うし、立場も違いますし、冒頭にも書いたように「わびしげ」とは少しニュアンスがちがうのかもしれませんが、清少納言にももうちょっと頑張ってもらいたいなー、と思うのです。


【原文】

 わびしげに見ゆるもの 六七月の午・未の時ばかりに、きたなげなる車にえせ牛かけてゆるがしいく者。雨降らぬ日、張り筵したる車。いと寒きをり、暑きほどなどに、下衆女のなりあしきが子負ひたる。老いたる乞食(かたゐ)。小さき板屋の黒うきたなげなるが雨にぬれたる。また、雨いたう降りたるに、小さき馬に乗りて御前(ごぜん)したる人。冬はされどよし、夏は袍・下襲もひとつにあひたり。

 

枕草子 いとめでたし! (朝日小学生新聞の学習読みもの)

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