おぼつかなきもの
心細くなるものというと…。12年の山籠もりをしている僧侶の母親。知らない人の所へ闇夜に出かけて行った時、「あんまり目立っちゃうのもどうかな」って、明かりも灯さないで、それでも並んで座ってるの。
最近仕えるようになった者なんだけど、まだ彼の人間性もわかってない頃、貴重な物を持たせて、どこかに使いに遣るんだけど、帰ってくるのが遅い時。それから、言葉もまだしゃべらない幼児が、反り返って、人にも抱かれないで泣いてる様子。
----------訳者の戯言---------
12年の山籠もり。これは比叡山延暦寺の「十二年籠山行」というもののようです。めちゃくちゃハードな修行らしいですね。
この行につく者は12年間比叡山に籠り、一度も山を下りることはないそうです。伝教大師・最澄の真影に侍って、最澄が今も生きているように仕え、献膳、勤行、清掃を、浄土院から一歩も出ずに十二年間続けるそうですよ。もちろん選ばれた僧侶がトライしますし、特別の尊敬を集める存在になるようですね。
上人のお世話をし、読経し、その他の時間は清掃を続けます。掃除しても掃除しても生える雑草、落ち葉を一人で取り除きます。これを延々と繰り返すのだそうです。厳しー。
もちろん病気になっても途中でやめることができないため、病死する僧侶もたくさんいたそうですね。それは親御さんからすると、この上なく心配に違いありません。
なので、これと比べると他の「不安」など、はっきり言ってどうってことないです。
あっそ、ぐらいの感じです。
【原文】
おぼつかなきもの 十二年の山ごもりの法師の女親。知らぬ所に闇なるにいきたるに、「あらはにもぞある」とて、火もともさで、さすがに並みゐたる。
今出で来たる者の心も知らぬに、やむごとなき物持たせて、人のもとにやりたるに、おそく帰る。物もまだ言はぬ児(ちご)の、反り覆(くつがへ)り、人にも抱かれず泣きたる。