枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

よくたきしめたる薫物の

 よく焚きしめた薫物(たきもの)が、昨日か、一昨日なのか今日なのかなんて忘れちゃったけど、取り上げたら、煙の香が残ってるのは、たった今焚きしめた香りよりすばらしいわ。


----------訳者の戯言---------

薫物というのは、種々の香を調合して作った練香。または、その香を焚くこと、焚きしめたものを言います。

前段に続いて「香り」のことを書いてるんですね。ご存じのとおり、香(こう)を焚くというのは、日本におけるアロマ文化の一つです。海外には無いのか、詳しい方に聞いてみたら、ネイティブアメリカンが、浄化のためにセージを焚くということをしているようですね。調べてみたところ「スマッジング」というものらしいです。
アロマキャンドルもまた加熱して香りを出すという点では共通しています。こちらはヨーロッパ、どうも起源は中世あたりのようで、蠟に香油を加えたものだということです。ただ、焚くというイメージはないですね。


所謂日本の「お香」の香料には白檀、伽羅(きゃら)、沈香(じんこう)などの天然の香木や、麝香(じゃこう)、竜涎(りゅうぜん)といった動物性のものがあり、これらを練り合わせて好みの香を作る合わせ香というものも行われたりするそうです。つまり、ブレンディングですね。

麝香というのは、ムスクと言われているそうです。たしかにムスクは聞いたことがあります。麝香(じゃこう)も、ジャコウ鹿とか、ジャコウ猫とか、聞いたことあるワードですよね。香料としては、ジャコウジカ(麝香鹿)の雄のフェロモンの元、分泌物、それを乾燥させたものなのだそうです。ジャコウジカは日本にはいませんから、輸入品だったのでしょう。南アジアに生息する鹿なので、中国経由で入ってきていたのでしょうね。今はもちろんワシントン条約で取引が禁止されてますから、売られているムスクを謳った商品は合成だそうです。天然のものは全然違うすばらしい香りらしいですから、やはり密猟が多いらしいんですね。複雑な気分がします。そこまでしてムスクの匂い、欲しいんですかね。

竜涎(りゅうぜん)香というのは、マッコウクジラの腸内に発生する結石だそうです。アンバーグリスとも言うそうですね。アンバーというのは琥珀のこと。元々は灰色の琥珀という意味だそうです。日本には室町時代あたりに入って来たのでは?と言われてますから、残念ながら平安時代にはまだ無かったと思われます。
竜涎香は水に浮くらしいですから、天然のものは海岸に漂着したものなのだそうですが、商業捕鯨が行われていた頃は、そちらからの供給もあったらしいですね。ですから、今はやはりめったに手に入らないレアアイテムのようです。

実は京都の老舗のお香屋さんには、古くからの香木や香料の備蓄が何百年分もあるんだそうですね。天然の麝香や竜涎香も持っているらしいです。
そこを世界中のアロマだとかコスメだとかパヒュームのハイブランドの会社の人たちが訪れるんだそうです。そう聞くと、日本のお香文化の副産物ですが、大したものだと思います。


少し逸れますが、日本にはポプリのようなものもあったんですね。
これまでにも何回か出てきましたが、「薬玉(くすだま)」がそれです。五月五日(端午の節句)に邪気をはらうために、御帳の柱やカーテンにかけた玉だそうです。先にも出てきた麝香(じゃこう)などの香料を錦の袋に入れて、菖蒲とか蓬なんかで飾って、五色の糸を垂らしたらしいですね。これを飾ったと。

この薬玉(くすだま)っていうのは、延命長寿、無病息災の願いを込めたものではあるんですが、実際にはアロマ効果を狙ったのでしょう。いい気分になる。アロマの心理的効果、つまりリラックス効果、抗不安効果というものがあるとしたんでしょうね。


さて、日本のアロマ。香を焚くという文化は、おそらくは仏教などと同様、中国から入ってきたのでしょう。それが貴族によって独自の文化となり、部屋や衣服への「移香」を楽しんだと。
清少納言は2、3日前の移香の残り香のほうが、今日焚いたばかりの香よりもいいと言うんですね。ダイレクトに来るよりも、微妙にほのかに香るのがいいということでしょうか。レノアですか。アロマリッチ? それともフレアフレグランスですか。ご結婚おめでとうございます。

ま、たしかにキツい香水の匂いなど、エレベーターで辟易することはありますね。
それにしても。
3年ぶりにLINE送って来る女、どーよって話ですよ。どう考えてもおかしいでしょ。しかもノコノコ会いに行く男。ダッサ。いくらなんでもダサ過ぎる。しかも香水のブランド名覚えてる男。きしょいっす。覚えててもいいけど連呼すな。借金のおねだりか、健康食品買ってくれ、ぐらいしかないでしょ、疑えよ。そうでなくても身勝手極まりないB型的女。
というわけで、あの歌がなんでそんなにいいのかわからない私です。


【原文】

 よくたきしめたる薫物の、昨日、一昨日、今日などは忘れたるに、引き上げたるに、煙の残りたるは、ただ今の香よりもめでたし。

 

枕草子 (岩波文庫)

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  • 作者:清少納言
  • 発売日: 1962/10/16
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五月の菖蒲の

 五月の節句の菖蒲が、秋冬が過ぎるまで残ってるの、すごく白くなって枯れて変になっちゃってるんだけど、引き折って取り上げたら、あの時の香りが残ってて漂うの。すごくいい感じなのよね。


----------訳者の戯言---------

かかふは、「抱かふ」と書き、抱きかかえる、召しかかえる、さらに→課せられたものとして保持する、つまり、現代で言うところの、仕事を抱える、悩みを抱える、等々の「抱える」のニュアンスもあるようですね。
ですが、ここで出てきた「かかへたる」はまた少し違う意味合いのようですね。「香りが漂う」という訳になります。「香かふ」の説もあるそうですから、そっちかもしれません。

また出てきました、菖蒲。ややっこしいやつです。
基本、菖蒲(しょうぶ)です。アヤメではありません。ただ、時々アヤメの場合があります。どないやねん。

菖蒲の芳香には、「テルペン」という分類に属する香り成分が多く含まれており、そのほか、アザロン、オイゲノールといった香りの成分が含まれているそうです。これらの成分は、血行促進や疲労回復にも効果があるそうです。入浴剤みたいなものですね。で、この菖蒲の根茎を乾燥させたものが「菖蒲根」という生薬となります。香りの強いものが良いとされていて、漢方では健胃や鎮痛などに効果がある…ということが言われてるらしいです。ほんまか?

とはいえ、菖蒲湯というものがあるのですから、入浴剤として使われるのは確かです。
そもそも「端午の節句」などというものも、古代中国で「厄祓い」のために始まった風習らしいですから、この菖蒲湯もそんな感じのものだったのだと思っていいでしょう。いい匂いするし~今年もやっか、ということで毎年やり続けて数千年ということですね。
実際、調べると、楽天Yahoo!ショッピングでも売られています「乾燥菖蒲」。が、Amazonでは販売なし。たしかにAmazonっぽくねー。

ただ、今はバスクリンもありますし、バブもあります。クレイとかアユラみたいなハイソでおしゃれなブランドものもあるから、今さら菖蒲湯ってのもね。そりゃ、オーガニックかもしれませんけど。オーガニックコスメのブランドも山ほどありますからね、今は。

というわけで、入浴剤というか芳香剤というか。アロマテラピーも、普通に天然の植物成分のアロマオイル(=エッセンシャルオイル)でやるわけですから、そうそう違うものではりません。と思って調べてみると、菖蒲由来の「カラムス」という精油エッセンシャルオイル)もあるらしいことがわかりました。アロマディフューザーとかに入れたりするといかしてますわね。

というわけで、なんかオシャレっぽい感じにまとめました私。清少納言もほんとはこんな風にまとめたかったでしょうね。どーだ。


【原文】

 五月の菖蒲の、秋冬過ぐるまであるが、いみじう白(しら)み枯れてあやしきを、引き折りあげたるに、その折の香の残りてかかへたる、いみじうをかし。

 

まんがで読む 枕草子 (学研まんが日本の古典)

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清水などに参りて

 清水寺なんかにお参りして、坂の下のほうから上っていくあたりで、柴を焚く香りが、すごくしみじみとしてて、それがいい感じなの。


----------訳者の戯言---------

坂もと。今は京都市中京区に坂本町がありますが、どうやら違うようで。坂本町は現在の京都御所の南あたりです。清水寺とは全然違う場所ですね。
「もと(本)」は下、元という意味合いかと思います。

道すがら、柴を焚いてたんでしょうね。焚火か民家の炊事でしょう。
今みたいにビニール袋やプラスチックとかは燃やさないですから、よほど変なものを燃やさなければ、香りは悪くないと思います。ま、平安時代ですから、ダイオキシンがどーのという議論はされません。ダイオキシンの発生や毒性についてはいろいろと科学的に議論されていますし、ほんとうに危険なのか、環境に対してどうなのかという詳細は省きますが、いずれにしても石油化学物質を燃やすと強い臭いがしますから、柴であれば安心で、風情も感じられたのでしょう。

さて、ここ4段くらい読んでると、賀茂神社広隆寺長谷寺清水寺、と、寺社に詣でている時のことだとわかります。しかも、季節や情景を盛り込んでいるんですね。これ、つまり、レジャースポットに出かけたときのインスタやツイートのアップに近いもの。ま、リアルタイムではなく、後年書かれたものでしょうけどね。
画像(情景描写)をアップして一言、みたいな感じがウケると思ったんでしょう、清少納言的には。ただ、本人はインフルエンサーのつもりかもしれませんが、それほど大したことは書いていません。今ならフォロワー2ケタレベルかと思います。


【原文】

 清水などに参りて、坂もとのぼるほどに、柴たく香のいみじうあはれなるこそをかしけれ。

 

枕草子 いとめでたし!

枕草子 いとめでたし!

 

 

九月二十日あまりのほど

 9月20日過ぎの頃、初瀬(の長谷寺)にお参りをして、とても小さな家に泊まったんだけど、すごく疲れてたから、ただただ眠り込んじゃってたの。
 夜が更けて、月明かりが窓から漏れてたから、人がみんなが横になってるんだけど、衣の上に白く映ったりなんかしたのが、すごくしみじみと感じられてね。そんな時に、人は歌を詠むんでしょうね!


----------訳者の戯言---------

初瀬(はせ/はつせ)は地名です。今の奈良県桜井市です。長谷寺(はせでら)があります。

旧暦9月20日頃は、今の暦で行くと10~11月くらいです。月は更待月(ふけまちづき)。夜半~夜更けの月で、一眠りしてから見かける月とされています。
多くの場合、仲秋、つまり陰暦八月二十日の月のことを指すらしいですが、一般には二十日月=更待月だそうです。

夜更けに窓から差し込む二十日月の月明かりの風情♪ という段です。清少納言が直接月を見ているわけではありませんが。
とりたてて、コレ!というポイントはありません。割とつまらないです。


【原文】

 九月二十日あまりのほど、初瀬に詣でて、いとはかなき家に泊まりたりしに、いと苦しくて、ただ寝に寝入りぬ。

 夜ふけて、月の窓より洩りたりしに、人の臥したりしどもが衣の上に白うて映りなどしたりしこそ、いみじうあはれとおぼえしか。さやうなるをりぞ、人歌よむかし。

 

#枕草子 #現代語訳

 

学びを深めるヒントシリーズ 枕草子

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八月つごもり

 八月の末、太秦広隆寺)にお参りするってときに、見たら、穂が出てきた田を、人がすごく大勢で見て騒いでるの。稲刈りをしてたのね。
 「早苗取りしかいつのまに(早苗を取って植えたけど、いつの間に~)」ってホント、この前、賀茂神社へ参詣しようって(田植えを)見たんだけど、(もうこんな季節?って)しみじみ感じ入っちゃうのよねぇ。今度は男たちが、すごく赤くなってて根もとは青い稲を手に取って刈るの。どうなってるの?って方法で、根もとを切る様子が簡単そうで、やってみたい感じにも見えるわね。どうしてそんなコトやってるのかしら? 穂を地面に敷いて並んで座ってるのも、おもしろいの。仮小屋の様子なんかもね。


----------訳者の戯言---------

八月つごもりですから、ちょうど今頃の時期です。今年は今日10月16日が旧暦8月の晦日みそか)ですから、今年ならまさに今日。ピッタリじゃないですか!

太秦にお参り、ということです。前の段は賀茂神社でした。太秦は今は時代劇の撮影所にして映画村があることで有名ですが、広隆寺という大きなお寺のあるところでもあります。その行く道、途中で見かけた光景のようです。
うずまさんぽ、ですね、一種の。太秦で役者やらせてもろてます、岸大介。空き時間83時間ありますねん、てね。シャツはSSですわ。新しいパン屋できたんでフィレオフィッシュ3つ買いましてん。「岸大介の男くノ一」に主演しとります。
って、めちゃくちゃ逸れました。


「早苗取りしかいつのまに」というのは、古今和歌集に採られている和歌の一部分です。いつものことですが、清少納言、知識自慢ぶっこんできてますね。

きのふこそ早苗とりしかいつのまに 稲葉そよぎて秋風の吹く
(きのう早苗を取って植えたと思ったけど、いつの間になんでしょ? 稲の葉がそよぐ秋風が吹いてるんだよね)

早苗(さなえ)というのは、苗代から田へ植えかえるころの稲の苗のことを言うらしいです。女性の名前でよく目にしますが、男性の名前でも時々はあるようですね。素朴でいて可憐な感じのする良い言葉であり、名前であると思います。ただ、前総務大臣高市早苗を思い出すと、そうでもないかーとも思いますが。

庵(いほ)。庵(いおり)です。農作業のために草木などで造った仮小屋をこう言ったそうですね。で、「いほ」と聞くと、有名な和歌を思い出しました。

秋の田のかりほの庵のとまをあらみ わが衣手は露にぬれつつ
(秋の田に作った刈り穂の(仮の!)小屋の苫(とま)が荒いから、私の衣の袖は露で濡れていることだよ)

天智天皇の詠んだ超有名な歌で、百人一首にも入っています。天智天皇というと、あの中大兄皇子ですね、元ですが。中大兄皇子と言えば、仲良しの中臣鎌足と共謀して蘇我入鹿を暗殺した、あの大化の改新で有名ですね。あと、弟の大海人皇子額田王を取り合った三角関係だったとか、そのせいで大海人と不仲だったとか、いろいろあるようです。
さておき、この「秋の田の~」の歌は、ほんとに本人の作?という説もあるようですね。似たようなのが、万葉集にあるんですよ。パクリ疑惑?という話です。まるでサノケンですね。佐野研二郎。みなさん忘れてると思いますが、東京オリンピックのシンボルマーク他諸々パクった人ですよ。佐村河内さんではないですよ。あれはゴーストライター、嘘つきです。嘘つきって意味ではおんなじですか。

秋田刈る仮いおを作り我が居れば 衣手寒く露ぞ置きにける
(秋の田を刈る仮小屋を作ってそこに私がいるから、衣の袖は寒くって露も降りたんだよね)

天皇ですから、たぶん農作業はしないですしね。シモジモの者の気持ちがわかるいい帝、というイメージ戦略かもしれません。


そもそも天智天皇の話ではありませんでしたね。すみません。
この段は前段の「賀茂へまゐる道に」の続編のようです。

今回は男性の稲刈りなんですね。たぶん鎌(かま)を使ってやってたのだと思いますが、知らないんですね、貴族とかは。鎌は石器時代からあったらしいのに。万葉集とか古今集の歌は知ってるけど、稲刈りの仕方は知らない。それってどーよと思いますね。
支配階級が無知だとほんと困るんですけど。のどかな農村風景の描写の裏に社会問題、政治問題が露呈してしまってます。清少納言は全く気付いてないですけどね。
多少なりとも民に対して意識のある天智天皇のほうがまだマシかもしれません。


【原文】

 八月つごもり、太秦に詣づとて見れば、穂に出でたる田を人いと多く見騒ぐは、稲刈るなりけり。「早苗取りしかいつのまに」、まことにさいつころ賀茂へ詣づとて見しが、あはれにもなりにけるかな。これは男(をのこ)どもの、いと赤き稲の本(もと)ぞ青きを取りて刈る。何にかあらむして本を切るさまぞ、やすげに、せまほしげに見ゆるや。いかでさすらむ、穂をうち敷きて並みをるも、をかし。庵(いほ)のさまなど。

 

 

賀茂へまゐる道に

 賀茂神社への参道で、田植をするってことで、女たちが新しい折敷(おしき)のようなものを笠にして被って、すごく大勢で立って歌を歌ってるの。身体を折って伏せるようにして、また何をしてるのかも見えないまま、後方に下がってくのよね。どうしたんでしょう?? おもしろいなぁって見てると、郭公(ほととぎす)に対してすごく失礼に歌うのが聴こえたもんだから、心苦しくって。
 「ほととぎす お前 あいつよ! お前が鳴くから 私は田植えをするんだよ」って歌うのを聴いたら、いったいどんな人が「そんなに鳴くな!」なんて言ったことがあるかしら? 誰も絶対言わないわよ! 仲忠の生い立ちをdisる人と、郭公が鶯に劣るっていう人は、めちゃくちゃ情けなくって、憎ったらしいのよね。


----------訳者の戯言---------

折敷(おしき)というのは、お盆です。調べると四角いものが多いですが、「笠にかぶる」という表現が出てきますから、円形っぽいものだったのかもしれませんが、四角のままだったかもしれません。まあ、どっちでもいいです。清少納言が見たものを書いただけですから、確証無いですもんね。

「なめう」というのは、「なめし」の連用形「なめく」がウ音便化したものだと思います。
「なめし」は「無礼だ」「不作法だ」という意味のようです。

仲忠?って何だったっけ? 何か見たことあるなーと思って、自らの記事を検索したら、つい1カ月半ぐらい前に書いてました。「宇津保物語」の主人公の名前でしたね。藤原仲忠(ふじわらのなかただ)です。すぐ忘れますね、私。いかんいかん。
仲忠は不遇な生い立ちで、つまりその幼少期、みすぼらしかったのを、結構悪く言う人がいたようですね。高貴に生まれた人が高貴に育つ、っていうのがベスト、と思ってるおバカさんが多かったんでしょうね、平安時代は。たとえ主人公でも身分が低くてみすぼらしいのは悪だと。さすが、おもいっきり差別社会です。

「宇津保物語」については、「かへる年の二月廿余日⑤」「物語は」に詳しく書いてますので、ぜひ参照してください。清少納言は仲忠押しみたいです。

清少納言的には、ホトトギスをdisられるのも許せないようですね。特にウグイスと比較して貶す人はアカンようです。そんなの好きずきだと思うんですけどね。なかなかの狭量っぷりです。


【原文】

 賀茂へまゐる道に、田植うとて女の新しき折敷(をしき)のやうなるものを笠に着て、いと多う立ちて歌をうたふ。折れ伏すやうに、また何事するとも見えで後ろざまに行く。いかなるにかあらむ。をかしと見ゆるほどに、ほととぎすをいとなめう歌ふを聞くにぞ心憂き。「ほととぎす、おれ、かやつよ。おれ鳴きてこそ、我は田植うれ」と歌ふを聞くも、いかなる人か「いたくな鳴きそ」とは言ひけむ。仲忠(なかただ)が童生(わらはお)ひ言ひ落とす人と、ほととぎす鴬に劣ると言ふ人こそ、いとつらうにくけれ。

 

枕草子 上 (ちくま学芸文庫)

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五月四日の夕つ方

 五月四日の夕方、青い草をいっぱい、すごくキレイに切りそろえて、左右の肩にかついで、赤衣(あかぎぬ)を着た男が歩いて行くのって、いい感じだわ。


----------訳者の戯言---------

端午の節句(五月五日)の前日の夕方ですから、節句、節会の準備なんでしょうね。
「青い草」は何なのでしょうか。よくわかりません。ただ、「草は」の段で筆頭に出てきたのが菖蒲でしたし、菖蒲の葉はそこそこ長いですから「担ぐ」という表現が妥当です。他に相当するような草は知りませんし、ワタクシ的にはやはり菖蒲としていいと思います。

専門家と呼ばれるような方でも、「青い菖蒲の花をたくさん綺麗に切りそろえて、赤い衣を着た男が両肩にかついで歩く姿がステキ!」のような訳をするケースがありますが、私はそれには懐疑的なんですね。この段では、決して花をつける「あやめ」ではない、ショウブ科の「菖蒲」と解釈すべきだと思います。

毎回書いてますが、「菖蒲」と「あやめ」は、たしかにややこしいんです。ショウブ科の「菖蒲」は「ショウブ」なんですが、「アヤメ」と読む場合もありますしね。ま、その辺について詳しくは「心にくきもの② ~夜いたくふけて~」の「訳者の戯言」にいろいろ書いています。よろしければお読みください。

そして。
赤衣というのは、検非違使という治安維持担当の下級役人が警護の時に着ていた赤い狩衣のようですね。赤衣を着た男性は、清少納言から見ると「身分の低い者」ですから、単純に「ステキ!」とはならないでしょう。

むしろ、端午の節句前日の夕方、そういう赤衣の男たちが菖蒲を担いで行く…。
清少納言がいいと思ったのは、そういうシチュエーション全体、シーンそのものと考えるほうが妥当です。それぐらい、端午の節句と、その頃の雰囲気が好きなのでしょう。

併せて「節は五月にしく月はなし」もお読みいただければ、おわかりいただけるかと思います。


【原文】

 五月四日の夕つ方、青き草おほくいとうるはしく切りて、左右(ひだりみぎ)担(にな)ひて、赤衣着たる男の行くこそをかしけれ。

 

学びを深めるヒントシリーズ 枕草子

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